俺たちが、学校に着いてから、そう時間も経たないうちに、パトカーと、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
「旧校舎の方」
「はいりゃーわかる」
「担架、七つよろしく」
警察のお兄さんが、無線機で、乱暴な指示を出していた。
そして、よくわからないうちに、チカコは、救急車で運ばれていた。俺たち三人は、お兄さんの運転するパトカーで、病院に連れていってもらった。
チカコは軽い診察だけで済んだらしく、俺たちが病院に着くと、待ち合いロビーで、にこ、と笑っていた。ナナミが、ぐすりと鼻をすすりながら、チカコにかけていった。
「チカちゃんせんぱぁーい!!」
「ナーちゃーーん!」
「すっごい、すっごい、すーっごい、心配しましたよぉ」
「ありがとー」
俺は、すっかり、気疲れして、ベンチに座り込んだ。後ろで、マコトが、警察のお兄さんと、何やら話し込んでいる。
これで、事件は終わった。
***
後々聞いた話だと、俺たちが走り回るまでもなく、旧校舎に、立ち入る予定は、あったそうだ。まあ、当たり前だ。あれだけの人数が、行方不明になったのだから。
マコトとナナミは。この事件以来、なんだか、いい雰囲気になり、二人でお昼ご飯を食べている姿を、よく見るようになった。
警察のお兄さんは。先走ったとか、なんとか、って言って、罰則をくらいそうになったが、結果オーライ、という感じで、何も罰則は、なかったらしい。
永井は。誘拐罪、及び、監禁罪、その他もろもろの罪に問われているそうだ。だが、精神鑑定にかけられるかもしれないらしい。
チカコに聞いたのだが、あいつの考えは、常軌を逸していた。
“死に瀕している、というのは美しい”
それは確かに、そうかもしれない。例えば、セミだ。セミは死に瀕しているからこそ、あれほどまで、美しいく鳴くのだと、誰かが言っていた。でもそれを、人間で再現しようだなんて、やはり、可笑しいのだろう。
そして、俺とチカコは。
この事件を期に、毎日の送り迎えが、常になった。マコトには、付き合ってしまえ、からかわれるが、どうなるかは、わからない。
そんな、夏の始まりだった。
セミの声は、まだまだ、続いている。きっとその鳴き声は、これから先も、死という未来を、俺たちに、突き刺さし続けるのだろう。
了
話題:SS
12/07/31