満月の夜
ショートストーリー

すっかり遅くなってしまった。ふと空を見上げると、満月が鎮座していた。どうりで、こんなに明るいわけだ。こんな夜は、魔が出るという。

「やあ、今帰りかい?」

不意にビル間から男の声がした。私が立ち止まると、スラリと背の高い男は、私の前に立ちはだかった。

「ええ、そうよ」

私はツンと答える。

「私が送って差し上げよう」
「ご遠慮するわ。どうぞ、お構い無く」

そう言って、男の隣をすり抜けようとした。すると男は、私の右手を掴んできた。

「こんな夜は、何が出るかわからないから、危ないですよ」

そう言って、男は笑う。私も、釣られて笑った。

「そうね。例えば、貴方のような、ヴァンパイアとかかしら」

私は言うと同時に、左手で男の左腕を捕まえ、自分の右手を自由にした。その右手で、ポケットに忍ばせていた十字架を男に押し当てた。

「ぐぁ! 貴様、ハンターか?!」
「そうよ」

私は、ヴァンパイア専門のハンターだ。こんな夜は、ヴァンパイアが彷徨くからと、パトロールしていたら、案の定、という感じだ。

「死ねぇ!!」
「貴方がね」

私は噛み付こうと近付いてきた顔に、十字架を押し付け、男をビル間に、追いやった。それから、杭を心臓にあてがう。

「それだけは、やめてくれっ。死にたくないっ!!」

無様に命乞いをするヴァンパイアに、私は、全身全霊を込めて杭を突き刺した。

刹那、慟哭のような断末魔と共に、ヴァンパイアは灰になって、ビル風に消えた。

「永遠の生などないのよ。まあ、どのみち、ヴァンパイアは一度、死んでいるんだけれどね」

私の呟きも、ヴァンパイアと同じ様に消えていった。



end
話題:SS


12/08/02  
読了  


-エムブロ-