愛してほしかった
ショートストーリー

なんだろう。たぶん、自分を切り売りにする感覚、とでも言えば、伝わるんだろうか。

初めてきちんと付き合った人は、優しい人だった。けれど、酷い性癖の持ち主で、あたしが泣くと悦んだ。あたしは、虐げられると悦んだ。

そこから、全部が狂っていったんだと思う。

その人と別れたあと。

別れた理由は、至極、くだらないことだったのだけれど。

まあ、その人と別れたあとだ。あたしは、いろんな男と寝た。毎日、違う男と、ご飯を食べさせてもらって、ホテルに連れていかれて、組み敷かれた。

そんな日々が、あたしにはお似合いだと思う。あたしは、いろんな事を、諦めていた。

適当にバイトをしたり、男に貢がせたりして、二年がたった。

久し振りに、同窓会が開かれた。お盆だから、みんな帰ってきてるだろう、と。

正直、昔のあたしを知ってる人間には、会いたくなかった。今のあたしには、昔の面影なんて、残っていないのは、あたし自身が、一番良く、知っていたからだ。

同窓会当日。隣に座ったのは、スラッと背の高い男だった。

「ごめん、だれ?」

あたしは、成人式にも行かなかったから、本当に、この隣の男が、誰かわからなかった。

「…桜井。お前、澤村でしょ?」

さくらい、さくらい、桜井…。あの、チビか。あたしは、ようやく、思い至る。

「あー、わかった。小さかった子でしょ。って言うかさ、あたしって、よくわかったね」

黒くて長かった髪は、短く明るい色になっているし、野暮ったかった眼鏡もやめた。大人しくて優しそうな澤村さんは、もう死んだんだ。ここにいるのは、派手で軽いマリアだ。

「見た目は変わったけど、その、鼻の感じは昔のままだよ」
「あっそー」

なんだよ、鼻の感じって、と思いつつも、時々、桜井と喋りつつ、そんなこんなで、同窓会は終わった。あたしは、一人で帰るのがいやになり、携帯から、適当な番号に電話を掛けた。

「迎えに来てー」
『わかったよー』
「ありがとー」

電話を切ると、隣から、ぬっ、と桜井が出てきた。

「彼氏?」
「ちがーう」
「親?」
「ちがーう」
「じゃあ、なに?」
「ふふー、セフレのあっしーくん」

桜井は、一瞬、とまった。

「引いたでしょ。あたしと、関わんない方がいーよ」

あたしは、ニヤニヤ笑いながら言った。桜井は、妙に真剣な顔をする。

「自分を安売りするなよ」
「うざ、説教?」
「お前のそーゆーとこ、見たくねぇだけ」
「じゃあ、見るなよ」

タイミングよく、車が来た。あたしは、桜井の隣をすり抜けて、車に乗り込む。

「待てよ!」
「あんたには関係ないね」

後部座席で、あたしは、うずくまった。

「マリア、どうかした?」
「なんでもない」
「大丈夫?」
「うるさい」
「だいじ「うっさいなぁ!」」

こんなのは、ただの、感傷だ。

あたしをあたしだって、気付いたこととか、お喋りが楽しかったこととか、説教されたこととか、そんなの、気の迷いだから。

あたしは、家につくと、冷たいシャワーを頭からかぶって、バスタオルにくるまったまま、小さくなって眠った。朝なんか来なければいいのに、と、願いながら。



end
話題:SS


12/07/27  
読了  


-エムブロ-