彼女が壊れたのは、彼女が俺を愛したからか、それとも、俺が彼女を愛したからか。あるいは、元々彼女が壊れていたからか。
《壊れた理由》
最初は、挨拶をするだけの仲だったのだが、いつしか、彼女の愚痴を聞くようになり、一緒に眠る日もできてきて、今はそれが日課になっている。
「愛してるわよー」
彼女は、俺をぎゅうぎゅうと、抱き締めながら言う。少し、窮屈だが、そんなことは、些細なことだ。
一人では身動きのとれない俺の毎日は、彼女に愛されることで、過ぎていった。
「世界中の、誰より、愛してるわ。だって、君は、絶対に、私を裏切らないものね」
彼女は、俺を抱き締めながら、言葉を発し続けるが、俺は、返事すらできない。
「愛してるの。ねぇ、答えて?」
彼女は、呪文のように、愛してる、と唱え続ける。
「愛してるのよ! ねぇ、答えなさいよ!!!」
彼女は、言いながら、俺を殴った。痛みを感じない俺は、彼女の手が心配になる。
「ぁあ、ごめんなさいっ。ごめんね、ごめんなさい。大丈夫だった? なにやってるんだろ。そんなつもりじゃなかったのに…。ごめんなさい。愛してるわ、愛してるのよ。ごめんなさい。お願いだから、愛してるって言って? ねぇ、お願いよぉ…」
とうとう彼女は泣き出してしまった。そして、壊れたテープレコーダーのように、ごめんなさい、と、愛してる、と、愛してるって言って、お願い、と、繰り返し続けた。
それでも、俺は答えることが、できない。
どれくらい、そうしていただろうか。彼女は、ふらりと立ち上がると、キッチンに消えた。戻ってきた彼女の手には、包丁が握られている。
「あいしてるの、だから、いっしょに、しのうよ」
彼女の包丁は、少しも狂わず、俺の心臓辺りを突き刺した。そして、ずるずると、腹の辺りまで、切り裂く。からだから、綿が飛び出した。
「いまいくわ」
彼女も、同じように、心臓に、包丁を突き立てた。彼女の血が、俺の綿に染み込む。からだが水っぽくなって、重くなるのを感じながら、俺は、ごみになった。
俺が、私が、壊れた理由
(俺が人じゃなかったから)
(私が君を愛したから)
end
話題:SS
12/07/27