無骨な手先
ショートストーリー

指先が艶かしい人だった。そのすらりと伸びた白い指で、頬を撫でられたいと思ったし、その指で、自分自身を慰めているのかと思うと、酷く煽られた。その左手の薬指に指輪がはまっているのが、尚更、艶かしかった。

《無骨な手先》

「先輩、これどうしたらいいですかね?」
「ん、なに?」
「これ」
「んー、ん。こうして、ああすれば?」
「あー、なるほど」

書面を叩く先輩の指に触れたいと思いながら、走り書きでメモを残した。

***

先輩がくれたモノを一つだって忘れたくなかった。先輩には可愛い奥さんがいて、毎日愛妻弁当で、幸せそうで。だけど、触れられたかった。先輩のカケラを握り締めて居たかった。

そんな日のこと。先輩は、本社へと転勤になった。おめでたい話だ。

私は、笑えなかった。泣きながら言ったおめでとうの意味を、先輩は、知らないんだろう。

今でも。

綺麗な指先は、先輩を思い起こしてしまって、苦しくなる。だから、私の好きなタイプは、手先の無骨な人だ。



end
話題:SS




13/10/25  
読了  


-エムブロ-