「ね、知ってる?」
彼女がイタズラっぽい顔で笑っている。
《浦島太郎を乗せた亀》
「浦島太郎を乗せた、亀いるでしょ。あの亀ってね、本当は、すっごく悪い奴なんだよ」
「へぇー。詳しく教えてよ」
僕が聞くと彼女は、待ってましたとばかりに、身を乗り出した。
「あの亀は、竜宮城の住人から対価をもらって海底まで人間を運んでいるの。竜宮城の住人の好物は人間の血肉で、普段は入水自殺した人を食べるの。別に生きていたって死んでいたって構わないらしいわ。けれど、亀は竜宮城の住人から、あるものを貰わなくちゃ、生きていけないの。だから人間を運ぶ対価に、それを貰っているのよ」
ランランとした瞳に、無垢な表情で、こうもグロテスクな話を、しかも楽しそうに話す彼女に、僕は呆れて続きを促した。こういう時の彼女は、気が済むまで喋らせないと、怒るのだ。
「なにを貰っているかっていうとね、人間の骨なの!亀の甲羅をより丈夫にするには、人間の骨が必要なのよ」
まあ頷けないこともない。
「じゃあ、浦島太郎は?」
「彼は命からがら、竜宮城から逃げ出したの。けどね、亀に恨まれて亀に殺されちゃったわ。だって竜宮城の住人たちに、肉を削いでもらわないと、亀は骨を手に入れられないんだもの」
「でも、それだけで、亀は悪い奴かい?」
彼女は、殊更、ニヤニヤ笑った。
「亀は、か弱い振りをして、人間の同情を誘って、騙して殺したの。悪い奴でしょ?」
「あ、そっか」
「本当、やな奴よね、亀」
僕が頷こうとすると、彼女は肩を竦めた。
「っていう、妄想。おわり!」
「今日のはちょっと、グロテスク過ぎかな」
「昔のお話は割とみんなグロテスクよう」
彼女の抗議をさらりと流し、僕は読書に戻った。
end
話題:SS
13/11/08