嘘の代償
ショートストーリー

嘘でも吐き続ければ、本当になるということを、あたしは、知っていた。どんな願いでも願い続ければ叶うのと同じように。

だから、あたしは、嘘を吐いた。一つ目の嘘はこう。
「あたしは、彼が好き」
恋愛感情なのか、ただの情なのか、もう、わからない。だけど、別れたくない、とは思っていた。だから、嘘を吐いた。
お陰様で、今日もあたしは、彼のことが大好きだ。

二つ目の嘘。
「彼はあたしを好き」
相思相愛だと、嘘を吐いておけば、心が穏やかだった。周りからも羨ましがられて気分が良いから、一石二鳥。

三つ。
「あたしは、出来る」
自分が出来る人間だと、嘘を吐くことで、そんな風に振る舞えた。出来なかったとしても、「そんなこともあるさ」と笑ってくれたから、それでよかった。

最後。
「いつでも笑顔」
誰にでも優しくて、笑顔が絶えない。そんな人間だという振りをした。

つまり、あたしは、他人からみれば、何の不自由もなく、幸福に見えるように、振舞った。

そんな生活が、一年、二年、と続き、三年目の春先のことだった。実家で飼っていた、コロという柴犬が亡くなった。良く実家に出入りしていた彼は、犬好きなこともあって、泣いていた。あたしは、泣かなかった。泣けなかった。

たしかに、哀しいと思いはしたが、涙が流れなかった。代わりに「今までありがとう」と笑っていた。気持ち悪いと思った。

哀しいのに泣けないなんて。けれど、とも思った。それが、嘘を吐き続けた代償なのだろう、と。
自分の感情を押し殺して、摩耗させて、偽りの仮面を被ったのは、あたしだった。好きでもない人を好きだと思い続け、好きでもない人から好かれ続け、自分を偽って、自分を隠した。

自分を騙す嘘の代償は本当の自分だった。あたしは、本当の自分が、わからなくなった。だから、これからも、嘘を吐き続けるんだろう。



end
話題:SS


13/09/22  
読了  


-エムブロ-