2012-12-26 22:49
気がつくと俺はベッドの上で目が覚める。
同じ景色。同じ時間。同じタイミングで、下の階から母さんが同じ言葉をかけてくる。
渋々俺は布団から起きあがって、次に由香を起こしに行く。
何一つ変わらない。日付はあの日に逆戻り。
由香がベッドから出てくるのを見届けてから、朝食と両親の待つリビングへ向かう。予想通りのメニューを半自動的に平らげた。父さんと母さんはまた同じ会話をしている。
支度を全て終えてから、由香より早く家を出た。
家を出て、あの曲がり角を曲がれば、良樹がぼうっと空を見ながら、俺のことを待っている。
それで、俺が角を曲がって来るのを見つけた良樹は、へらっと笑っておはよって言うんだ。
ほら。
俺と肩を並べて歩き出した良樹は、笑顔はそのままに昨日バイトで起こった面白いことを身振り手振りで話し始める。
もう何十回も聞いた話で、オチなんか最初から分かってる。けれど俺は何一つ変わらない相槌を打って、良樹がオチを言った後には大笑いする。
何で。どうして笑ってんだよ。俺もお前も、これから死にに行くんだよ。
良樹と笑い合いながら、俺は頭の中であの惨劇のことを思い出していた。放課後になったら、俺たちは呪いのおまじないをして、恐ろしい場所へ迷い込む。みんなも良樹も死んで、俺も死んでしまうと、再び今日の朝に逆戻りする。
全部分かってんだよ。いやだ。またあの苦痛を繰り返すのは。幾度も目にした仲間や良樹の死に顔が頭から離れない。今目の前で良樹は笑っているのに。放課後になったら、またあの血塗れの死体になってしまうんだ。
良樹はふいに照れ笑いしながら言う。今日バイトないからさ、放課後、どこか遊びに行こうぜ。
俺は笑って、いいな、どこに行こうかと返す。全部予め決められていること。もう何度も繰り返してきたことだ。
当たり前の筈の今日の放課後は、俺たちは一生迎えられないんだ。今話している遊ぶ約束だって果たせない。
不意に視界が滲んだ。今し方今日の放課後のことを楽しげに思案していた良樹の瞳が俺に向けられ、驚きで見開かれている。
どうしたんだよ、と良樹が声をかけてくる。おかしい。こんな会話は今までになかった筈だ。こんな展開、俺は知らない。
俺の顔は勝手に笑おうとしていた。何でもない、と取り繕った言葉も僅かに震えている。
それでも、怪訝そうな顔をしつつ良樹は何かあったらいつでも言えよ、と言って、また前方を向いた。
だめだ。またいつもの今日に戻ってしまう。同じ結末を迎えることになってしまう。そんなの、だめだ。
「良樹!」
気づいたら良樹の腕を引き、走り出していた。良樹が驚いた様子で、どうしたんだよオイ、と叫んできたが、無視した。
良樹の腕を掴む手は次第に掌の方へ移動していき、指を絡めた。良樹は、抵抗はしなかった。
そうだ、逃げよう。呪いの手の届かないところへ。
何度も見てきた、変わらない筈の空がとても目新しく非日常的に見えた。
今日の放課後の約束を果たすために。俺たちはどこまでも走った。