Z*C STORY
 確かなことはたったひとつ、



 もしかして、なんて気付いた時にはもう遅い。
 初めて出逢った時感じたもの、今こうして一緒にいるだけで胸の中に込み上げる"何か"の名前に気付いてしまったから。


 夕食後、泊まると云ってくれたクラウドをバスルームに連れて行ってから食器を洗い、ザックスは一息つこうと冷蔵庫からビールを取り出してそのままベランダに出た。
 ベランダに置きっぱなしの黒い折り畳み椅子に腰を下ろし、プシュ、とビールの蓋を開ける。
 三口ほど飲んで木造の丸い小さなテーブルに缶を置き、いつもズボンポケットに入れている煙草の箱から一本出し唇でくわえる。
 火を点け、独特の煙を吸いながらさっきまで一緒に居たクラウドの事を考えた。

 無表情で冷たく捉えられがちな外見(自分はそうは思わないが同僚意見)からは予想がつかないが、何かとクラウドは人の内面を見ているのだとザックスは会話しながら気付く。
 なかなか改めてようとしない互いの距離や言葉遣いに、ザックスは違和感を覚えていた。
 最近自分の周りに来る者は誰も彼も自分の立場に惹かれているだけ、つまり自分よりソルジャー1stという肩書きに目が眩んだ者ばかり。
 全部が全部ではないが、ソルジャーの仲間で本当にザックスと親しいのは一握り。クラウドに云った『忙しくて友達が居ない』というのも嘘ではない。
 だからこそ、クラウドの自分との距離を開けたままでいようとする姿勢が気になったのかもしれない。
 ソルジャーに憧れていると云っていた。なら自分と仲良くなりたい、と

「思ったりしねーのか…な…」

 フー、と煙をゆっくり口から吐き出す。夜の闇にゆらりと消える様を見ながらザックスは空を仰いだ。

 普通、此処までしないよな、とは思っていた。だからクラウドが戸惑うのも仕方がないと感じてはいた。
 親しい仲間のソルジャーならまだしも、一般兵相手に。しかも初対面。 しかもしかも、男。

「……最後のは関係ないか?」

 部屋に戻って冷静になってきた頭でザックスは考える。
 クラウドが、というよりも自分がクラウドと仲良くなりたいだけなんじゃないか?
 ふ と、よぎったのは夕食時のクラウドの笑顔。媚びるものでもなく作ったものでもない、屈託無く心から楽しんでいた笑顔。
 こんな顔も出来るんだな、とつい頬が綻んだのを覚えてる。
 そして可愛いな、なんて思って。

(…ん?ちょ、)

 待てよ?とザックスは自分に云う。何かおかしくないか?いや可笑しい。

(男相手に可愛いってどうよ…)

 煙草の先に灰が溜まっていたのか、ポタッと塊が落ちた。
 煙草をくわえたままそんなに色々考えていたのかとザックスは苦笑する。

「…もしかして、なぁ」

 シャツに落ちた灰を手で払いながらも、頭にはクラウドの笑顔が浮かぶ。
 するとドクン、と動揺に強いソルジャーらしからぬ鼓動を胸が刻んだのを感じ、ザックスは自分の身体に驚いてだらしなく椅子にかけていた背中をシャンと伸ばした。
 そして自分の左胸元に右手を置いて、鼓動を感じる。

「何で…「何してるの?」」

 急に聞こえた声にザックスはびくっと背筋を伸ばし、驚いて目を丸くし声の方を見た。
 そのオーバーすぎる動作にビックリしたのは相手も一緒らしい。
 ベランダの入り口より数歩後ろで、頭を包んでいるタオルの端を掴んだまま碧の瞳を大きくして此方を見、立ち尽くしていた。

「あ、あぁゴメン。急に声したからビックリしただけ」

 先に我に返ったザックスは煙草の火を灰皿で消し、胸元に置いた手を離してクラウドの方を向いた。
 と、目に入るクラウドの格好に今度は狼狽えた。
 自分が貸したピッタリめだったシャツはクラウドには大きいのだろう、首から鎖骨にかけて大きく開き風呂上がりでピンクに染まった肌が広範囲に見える。
 腕は長いのか指先がちょこんと覗くだけだ。
 黙りしたままのザックスに違和感を感じたのかクラウドが首を傾げる様に、何だかモヤモヤとしてくる。

(か、わいい…)

 そうだ、やっぱり可愛い。本人に云えば怒るだろうが、可愛いものは可愛い。

(もしかしてこれって、"もしかして"じゃなくね?)

 さっきまで考えていた事と、今感じるものを重ねてみれば、答えは出ている。
 初めて出逢った時のあの感覚も今沸き起こる感覚も、目の前のクラウドのせい。

(惚れた、んだ)

 心の中でそう云いながらクラウドを見た。微かに潤んだ瞳がまっすぐ見つめ返してくる。
 つまりは一目惚れだったということか?と自分に問う。

「クラウド…」
「なに?」
「…やっぱ何でもない」
「?変なヤツ…、…あ」

 クラウドがしまったと云わんばかりの表情をし、慌てて両手で口元を塞いだ。その動作が示した内容に気付きザックスは気にしないよと笑う。

「それでいいんだって。"トモダチ"なんだからさ」
「…ともだち。」

 繰り返すクラウドの言葉にザックスは頷く。

「そう、トモダチ、だからな」

 クラウドにではない、まるで自分を抑制するかのようにザックスは告げた。
 今はこれ以上踏み込んではいけない。いつかクラウドの中に自分という存在が別ラインで確立してくれたら―――
 その時が来るかすら解らないけれど、とザックスは立ち上がりクラウドを自室の迎えにある空き部屋に案内した。

 また明日、なんて笑いながら
 その綺麗な金と碧に 一人焦がれて




 確かなことはたったひとつ、
   君が好き
     君が、好き。






2010/1/16
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