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ガチャリ。
1人ぼっちの静かな部屋に鍵が開けられる音が響いた。
それに次いで、ドアを開けて、閉める音。
誰が来たかは分かってたけど、あえて布団にくるまったままベッドの上でじっとしてた。
聞き慣れた足音に、安堵で胸が膨らむ。
「お前なぁー…」
「…へへ、久しぶりー」
「久しぶりーじゃねぇよ、メールも電話も返事ないから死んだかと思っただろぉが」
「…うん、ごめんね」
「今日も雪だな」
「ん…、」
「最近よく降ってたもんな」
「まぁ、冬だからねぇ」
ふふ、と精一杯楽しそうに笑ってみせたが、和真は呆れたように私を見る。
「無理すんなって。今さらじゃん」
「…んー。や、もう、本当毎年ごめんね」
実は私は昔から雪が苦手で。
特に新雪なんかは怖くて仕方なくて、一人暮らしを始めた今では雪が降ると誰とも連絡を取らずにただ、雪がやむのを布団にくるまってじっと待つようになっていた。
「ほんと、何で雪が怖いんだろね…」
「さぁ?アレじゃね?昔雪だるまに食われた思い出があるとか」
「ないよ!」
そりゃあったら相当なトラウマだろうけど!
和真のアホ発言に少し笑い合ってから、甘えるように和真にもたれてみる。
「…なにー?珍しい」
「や、たまには乙女になろうと思ってねー」
「ふぅん」
「……」
それきり何も言わず、動かない和真に密かにむっとした。
わがままかもしれないけど。
分かってほしいんだもん!
「ねぇ、和真」
「んー?」
「んっ!」
私が両手を広げると一瞬ぽかんとした表情でこちらを見て、
そして段々と口角が上がっていった。
「どしたの?口で言わなきゃ分かんねーけど」
「……っ!ばか!分かってるくせにー!」
「分かんないって。ほら、言ってみ?」
ニヤニヤと笑う和真が憎たらしい。
あぁ、もう!
「……ぎゅー、して?」
そう言うとすぐに、大きな温もりに包まれた。
安心感がどっと押し寄せてきて、和真の胸に額を押し付ける。
頭の上で小さく笑う声が聞こえて、それからまるであやすように頭を撫でられた。
子供扱いされてるみたいでちょっと恥ずかしい。
でも、改めて自分の場所だって確認出来たみたいでなんだかうれしかった。
ほら、雪が溶けたよ。
(
やばい、安心したら眠くなってきた)
(
おまっ、散々心配させといて…!)
うるさいくらいの、雨音。
雨の音以外、何も聞こえない。
暗い空。
真っ暗で、真っ黒な空。
距離感が掴めないソレがどうしてだか正面にあった。
痛いくらいに次々と体に落ちてくる雨が、頬から耳の後ろへ、後頭部へと流れていくのを肌で感じて、自分の体が冷たいアスファルトに横たわっているのを理解した。
「ーーっ!ーーー!?」
…うるさいなぁ。
横たわっている俺の横で、地面にへたり込むように座って"聞こえない何か"をひたすら俺に言う千夏に視線をやった。
あぁ、瞼開けてんのもだるいなー…。
何だろ、コレ。
そっと瞼を閉じようとしたら、また。
「…、ーーっ!」
相変わらず聞こえない癖に、うるさい呼び掛けにそのまま目を閉じることを阻まれてもう一度千夏を見上げる。
そーいやお前、びちょぬれじゃんか。
傘……、後ろに放り投げちゃってるし。
"お気に入りのワンピース"まで濡れてんぞ?
つか地味に体弱ぇくせに。
風邪ひくぞ、馬鹿。
そう伝えようとしたのに、声が出ない。
なんで?
そういや、体が熱い。
…頭も痛い、かな。
状況把握ができないままに、とりあえず泣いてるらしい千夏の頬に手を伸ばす。
涙、拭ってやらねぇと。
あーあー、化粧落ちてすげぇ顔になってんぞお前。
重い腕をゆっくり伸ばして千夏の頬の涙を拭おうとしたが、それは叶うことなく、重力に従って力の抜けた腕がアスファルトに叩き付けられる。
特に痛みを感じることはなかったが、自分の腕が赤く染まっていることに驚いた。
なに、血…?
「……ぃちっ!洋一!!」
漸く聞こえた愛しい声に、こんな状況だと言うのに少し安堵した自分に内心苦笑する。
大声で俺を呼ぶ千夏の声。
大勢の人の足音、ざわめく声。
スリップしたまま余韻のように小さくエンジン音を鳴らし続けるトラック。
やっと聴覚が戻ってきたと思ったのに、今度は視界が暗くなってきやがった。
瞼までもが重力に従ってゆっくり閉じていく。
「や、やだ…っ!ねぇ、約束っ…一緒に泊まりで遠出しようって言ってくれたでしょ!ねぇってば…っ!」
約束、か。
ごめんな、千夏。
もしかしたら、守ってやれないかも。
「ようい、ち…洋一洋一洋一…!!」
"死"ってものも漸く実感し始める。
どんどん重くなっていく体と、どんどん軽くなっていく精神。
こうやって、バランスが崩れたときを"死"って呼ぶのかな。
もうほとんど残されてないだろう時間で、意外と冷静な自分に驚く。
ごめんな、千夏。
俺、もっとお前といたいから死ぬのはやっぱヤダけどさ。
どうせ死ぬなら、お前の声聞きながら逝けて、嬉しいって思ってる。
「洋一…1人にしないでよぉ…!」
ごめんな。
ずるくてごめん。
ありがとう。
雨の中、
君と永遠の
サヨナラ
(ずっときみがすきです、)
創作サイトで書いてた「守護霊シリーズ」の洋一が死ぬ直前のお話。
かやのは微妙に千夏さんと似てる設定で(・∀・)
暗くなっちまった…!
倉庫サイトになっちゃってますが、その内「はじめに」ページにでも創作サイトはっつけときますー。
「うざい」
……あ?
いつにも増して無愛想な顔で教室に入ってきて俺の席まできたかと思うと、
開口一番にはっきりとした口調で冒頭のセリフを吐き捨てられた。
「何、お前?どしたの?」
「べっつにー」
「別にじゃねぇだろ」
「……」
「何でそんなイライラしてんのー?」
「してないっ!」
そう言って勝手に俺の前の席の椅子に座ったかと思うと、くるりと体を俺の方に向けて黙り込む。
無言。
がやがやと賑やかな教室の片隅に妙な空気が流れている。
何か怒らすことしたかな、と思考を張り巡らせながら彼女の方を見ると、彼女もちょうど俺を見たようで、視線が絡んだ。
「……間宮さん」
「ん?」
ぽつりと呟かれた言葉。
上手く聞き取れなくて聞き返すと、さらに不機嫌に彼女の眉間にシワが寄った。
「間宮さんと、仲良かったんだねぇ」
「は?別に…」
同じクラスだし、まぁ普通に話すくらいはするけどさ。
「楽しそうだったねー。よかったねー。間宮さん可愛いもんね!」
一気にまくし立てるようにそう発すると、座るときと同様にガタンッと大きな音を立てて席を立って俺に背を向けた。
そのままスタスタと歩いてドアの方へ向かおうとする。
あぁ、そういうことか。
少しずつ離れていく背中を眺めながらようやく理解した。
「なぁ、」
俺の声に、振り向きはしないもののピタリと足を止めた。
「ヤキモチ妬くとかお前、意外と可愛いとこあったのな」
言い終わるか言い終わらないかくらいで、彼女は真っ赤な顔で振り向くと何か言い出そうに口をパクパクさせながらも、結局何も言わずに教室を飛び出した。
ヤキモチ天気に
ばいばい。
「待ってっ…ってば…!」
「あ?」
自分の前を歩く人の服の裾をやっとの思いで掴む。
広い広い公園の長い長い道。
目当ての人を見つけて慌てて飛び出してきたせいでマフラーや手袋なんてしていなくて。
自分が吐き出す白い息が視界を悪くする。
でもそれは白い息のせいだけじゃなく、つん、と鼻を突くような痛みと瞳の奥から込みあがってくる熱い液体も関係してりるんだろう、とぼんやりと頭の片隅で思った。
服を掴んだままに弾んだ息を整えながら、必死に回らない頭を動かそうとする。
「そろそろ離してくれない?」
はぁ、と溜め息とともに私の耳に届いた低い声。
思わずびくりと肩を震わせてから、俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「……っ、ふ、あのっ!」
「何」
「な、名前…っ、教えて!」
「え、やだ」
正面の無駄に顔だけ整った無愛想な男は微塵も愛想を振りまくことなく切り捨てるように答えた。
「なななんで…!」
「知らない人にいきなり話しかけられて名前教えろとか言われても…」
やだ、ともう一度繰り返す。
「知らない人じゃないじゃん!わたしっ、一目惚れしてからずっと好きってさっき告ったし…」
「あー…、あんたはそうでも俺からしたら知らない人だし」
「だからこれからもっと知りたいし、知ってもらいたいって思っ…」
「俺、知らない人にずっと見てましたーとか言われた時点でもう無理なんだよね。ごめーんね」
なんかストーカーみたいで気持ち悪い、って。
嗚呼、なんてストレートな!
自分で思ったよりもダメージが大きかったらしく、自然と緩んだ手の力に気付くと、何も言わずに彼はまた背中を向けて歩いていく。
一歩、二歩。
そうやってどんどん開いていく距離に耐えられなくなって声をあげる。
「あ…っ、アトリ君!」
「……は?」
「名前っ、教えてくれるまでアトリ君って呼ぶから!わたしのことっ、ちゃんと覚えてもらえるまで諦めないからねーっ!!」
呆けたような表情で振り返った彼に、構わず続けて叫んだ。
「アトリって、誰」
「花鳥!なんか君と似てるの!」
意味が分からない、とでも言いたげに眉を潜めた彼に精一杯の笑顔を向けて。
今度はわたしが背中を向けて歩き出した。
ああもう、絶対諦めてやんない。
わたしを本気にさせたんだから、覚悟してろっ!
気合いを入れるように握りしめた手に息を吹きかける。
自分が吐き出したそれは冷えて赤くなった手には妙に暖かく感じた。
―END―
(
複雑そうな色が、ずっと似てると思ってた)
か、書きにくかったー!
花鳥って花鳥風月しか思い付かんかったけど、辞書で調べたら花鳥(アトリ)っていう冬鳥のことを指すらしい。
…間違ってても気にしない!
これからアトリ君はまじでストーカー並みに追っかけ回される予定(笑)
びっしりと並んだ活字の上に、ふいに小さな白い手が現れて、次の瞬間には両方視界から消えていた。
「…新聞、途中までしか読んでねぇんだけど」
「新聞じゃなくて、わたしを見てくれなきゃ、いやんっ」
「ばか」
いやん、じゃねぇよ。
高い声で笑う彼女に呆れて視線を向けると、ちょうど俺から取り上げた新聞を後ろに放ったところだった。
見事に後ろの棚の上にある観葉植物に新聞が突っ込んだ。
…あー。
「ねぇ、晴希ー。最近ドラマ見てる?」
「ドラマ…見たり見なかったりだな」
「あれは?今やってるウイルスのやつ見てる?」
あぁ、あの、某なんちゃらマンディ…。
「見れるときは見てるけど…」
「そっかそっかー。ふふ、なんと!わたしは殺人ウイルスを手に入れたのですばきゅーん!」
意味が分からないっていうか、もっとマシな嘘つけっていうか、ばきゅーんって何ですか。
無意識に顔をしかめ、こめかみに手を当てる。
コイツと付き合うようになってから付いた癖。
俺、何でこんな奴が好きなの…。
自分の趣味がおかしくなったのか、と悶々と考え出しそうになったとき、思考が途切れた。
気付くと目の前に結衣の顔。
ちゅっ、と軽く音がして結衣が離れたかと思うと、はにかんで笑った。
「……殺人ウイルス、投入かんりょー」
「な……っ」
「あのね、殺人ウイルス投入したからねっ、わたし以外の女の子を好きになったら死んじゃうよーん」
爆発しちゃうんだからねー、と理解不能なことを言って声をあげて笑った。
あぁ…、もう。
「なに、それ…」
「んふふー、発動条件?」
「意味分かんねーよ」
「つー、まー、りーっ!」
そこで一旦区切ると、俺の首の後ろに両腕を回して密着する。
「ずーっと、わたしだけを見ててねっ?」
「…んなの言われなくてもお前以外興味ねぇよ」
「へあ!!」
目の前で顔を赤く染めながらもニヤニヤしながらこっちに携帯画面を向ける結衣。
その手の中には録音終了、保存しました、という恐ろしい文字が液晶にならんでいて。
自分が言ったことに後悔するのに時間はかからなかった。
―END―
(
ふっひゃー!やばいやばいやばい!これをアラーム音に設定すれば毎朝、春希の甘い囁きで目が覚めるんだねっ!)
(
止めろ馬鹿がぁぁぁぁ!!消せ!今すぐ消せ!!)