10cm、背伸びしてみた。
実際は7cmとかそのくらいしか変わらないんだろうけど、少しだけ……少しだけ世界が変わって見えた。
月日が経って、幼い頃から10cm以上は大きくなった私。
それでも私は10cm、背伸びをする。
私の世界は常に変化をしている。
私が一人で歩いていると、ふと右手に誰かの手が当たった。顔にはなぜかもやがかかり、正体を隠している。
私より多少大きいその人はこちらに顔を向けてにこりと微笑むと、私の右手を取って一緒に歩き始めた。
なんだか嫌な気もしないので、そのまま二人で歩いていると、今度は左手に誰かの手が当たった。
またか、と思った。
今度は小さな手の小さな子だったが、長く真っ直ぐな髪を二つに結わいた姿から顔が見えなくても女の子だとわかった。
女の子の肩は少々震えていて、繋いだ遠慮がちな手からは寂しい、怖い、やだ、といった負の言葉が感じられた。
足取りの重い女の子とは正反対の右側の人は、女の子を視界に捉えてもなお、にこにこと笑ったままだった。
だんだんと居心地が悪くなった私は小さな女の子に話し掛けた。
「どこからきたの?」
女の子は答えなかった。
仕方がないので質問を変えると、女の子は少し成長したように見えた。
「私の事を知ってるの?」
「昔から知ってるよ」
女の子はそれだけ言うと、また成長したように見える。背丈も伸び、切ったのか知らないが腰まであった髪が肩の長さになっている。
私は急に女の子を懐かしく思った。
気付いたら女の子は、眼鏡をかけ、濃紺のセーラー服を着ていた。
少女は泣いていた。
なぜ泣いているのかと聞こうとした瞬間、その子は私の手を勢いよく振り払った。
泣いている少女はその場に座り込んでいるが、右手を握るその人が歩みを止めず、その子を置いていく形になった。
右手を握る人が女だという事は最初から知っていた。細いわけではないがしなやかな手、女を思わせる豊満な体つき。
彼女は、笑っていた。
人の不幸を笑うような嘲笑ではなく、希望に満ちた輝いた笑顔だった。
私は先程の少女が、過去の自分だという事に気が付いた。ではこの右手を握る女性は誰か、なんて答えは一つに決まっていた。
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ちょっと長め且つ不思議な話。
有り余るほど暇はあるけれど、ちっぽけな私は時間が足りないなんて嘆いてる。
有り余るほど愛はあるけれど、寂しげな私はあげる人がそれほどいないと言う。
有り余るような富はないけれど、実はいつだって傍に誰かががいる。
その事に気付けなかったのは、私がちっぽけで寂しい人だったから。
少しは私も変わっただろうか。