2013-8-16 17:21
「英雄の凱旋だ…!」
兵たちの列を囲む民衆の中から子供の声が上がった。
馬上から声がした方を見やる。
子供たちがキラキラと瞳を輝かせ、羨望の眼差しを向けていた。
ふっと、俺は徐に視線を反らす。
何度も、何度も経験した。
帰る度に、あの瞳を曇らせる事も。
懐かしさに眼を瞑る。
闇が訪れて、音も感覚も遠くなる。
風が吹いた。
見詰める先は名も無き墓。
「兵長も、こんな感じだったんですね。」
期待と羨望に満ち溢れた瞳と絶望の瞳を向けられ続けた。
(そうだな)
「反らしたいと、思った事は無いのですか?」
自分自身も幼い頃は、あの子供たちの様な眼差しを向けていた。いざ兵士になり、初めてあの羨望を受けた時は誇らしかった。あの時までは。
「何時までそうしてるつもりだ?エレンよ…」
「兵長…」
「俺はもう兵長じゃねぇと何度言えば…」
くすり、と笑いを溢して声のした後ろを振り返る。金の瞳に映したのは、片足を無くした男。
「はい、今は俺が兵長です。でも、今でも…俺にとって貴方はずっと、兵長です。
リヴァイ兵長…
そう、名を呼ぶと男は昔と変わ無い表情を浮かべた。微かに、それが微笑みだという事を知るのには大分時間が掛かった。
「それよりも、エレン、団長が呼んでいた。早くしろ。」
「あ、はい…」
返事と同時に見ていた墓を再度見る。
今日、凱旋から戻った。また人が死んだんだ。
過去に亡くなった調査兵団の団員達の墓。
戦友達が眠る。実際には眠ってはいないが。
一礼し、その場を去った。
「エレン!テメェどこいってたんだ死に急ぎ野郎!戻ったらさっさと報告しろって言ってんだろが!」
がターンと木製の椅子が立った勢いで倒れた。
エレンが部屋に戻った途端にこれだ…とため息を吐くと団長は「ぁあっ!?」とキレ気味に凄んでくる。何故こんな男が団長を勤めているのか…。
「ストーップ!落ち着いて、ジャン。どうどう…人参食べる?」
「だ、だから!俺は馬じゃね…」
「ぶっ…くくくっ…」
「なぁに笑ってんだエレン…」
わなわなと唇を震わせ今にも飛び掛かりそうな勢いを圧し殺しているのか、額にはうっすらと筋が浮かんでいる。
第16代調査兵団団長 ジャン・キルシュタイン
そのジャンを止めたのは 第3班分隊長、兼団長参謀 アルミン・アルレルト。
どちらもこれまで死地を共に乗り越え生き残った戦友だ。
「変わらない、と思ってさ…」
あんまりにも笑うものだから、ジャンは「白けた…」等とぶつくさ言いながら、倒れた椅子を起こし座り直す。同時に団員か調査報告書を手に部屋に入って来た為、ジャンはこほんっと一つ咳払いをし俺に再度視線を突き刺す。
「イェーガー…これは、義務だ。兵長としての自覚を持て。その、巨人化の能力も今や英雄視されているが何時、また、驚異と見なされるか解らん。勝手な行動は慎め。
「はいはー…」
「イェーガー」
「わかったよ…ジャン」
変わらない、そんな部分もあったが今は大分変わってしまった。
先ずは、大人になった。毎日毎日、刻々と状況が変わって行く。
立場も代わった。
前団長エルヴィン・スミスは昇進し新たな役職に就いた。今でも調査兵団には所属し大きな判断は団長になったジャンと相談し運営をしている。たまに壁外調査にも同行する。
リヴァイ兵士長はとある事から片足を無くした。その為兵士から離脱している。その代わりというか、ミカサがその腕を奮っている。今ではリヴァイの下に着き、色々と学んでいる。そのミカサは兵士長の座を用意されていたが辞退した。その為、俺は兵長として分隊長達を纏める役割に就いた。
ハンジ分隊長は未だに分隊長をしているが、新たに設けられた班に属している。今まで明確になっていなかった内容を、きちんとした部署にし、それに特化した研究チームとなった。