多分、タツバキタツ。
何か無駄そうなことを長々しく話しています。
達海は相変わらず何か病んでます。
では、どうぞ。
「なぁ、椿。生きてるのが苦痛な時ってある?」
俺ねー、今は無いけど、イングランド行って、足やって、引退した直後はさすがにまいっちゃってねー。
「いっそ殺して欲しかったね」
だってさぁ。どんだけ好きでも、愛していても、二度とフットボールは出来ないんだ。
蹴るくらいは出来ても、二度とピッチに立って、走り回って、シュート決めたりは出来ないんだよ。
そんな人生をこれから歩まなくちゃ行けないと思った時は絶望したね。
「もうね、正にお先真っ暗ってやつ」
まだ25歳だぜ?
後悔は勿論無かったさ。絶望だけはあったけど。
覚悟しててもダメなんだよ。
やっぱり辛いもんは辛いよ。
味方なんて誰もいなくて、見舞いたって引退するしかない上に入った直後だぜ?
そんなに来ねーの。
でも、日本に帰る気にもなれなくてさ。
結局イングランドをさ迷ったよ。
金無くても意外にどうにかなるんだよな。
寂しかったけどね。
そしてあの町に辿り着いたんだ。
「そこからは寂しくもなかったし、絶望は消えたよ。監督って希望が見えたから」
フットボールの女神は俺を生かした。ま、でかい貸し残したまんまだったけど。
まだ、俺はフットボールを”してる”んだなって思ったら色々考えたよ。
戦術ってやるよりやらせるのが難しいしね。
俺ならどうする、とか。
その「どうしたいか」をどう伝えるか、とか。
沢山考えた。
プレーするのは俺じゃないからね。
楽しかったけど、たまにチクりと痛んだよ。
それでも嬉しいのが勝つんだからさ。人間なんて安いもんよ。
「今、幸せですか…?」
「んー?フットボールに関われてんだもん。常に幸せだよ。俺はさ」
馬鹿だなぁ。絶望に浸ったけど、後悔してない以上、結局俺は幸せだったよ。
勿論、今は幸せだしね。
日本に戻って来れたし、古巣に戻って来ることも出来た。
有り難いことに、最近は選手も俺の考えを理解し始めてくれてる。
これの何処が幸せじゃないんだよ。
幸せ過ぎるだろ。
チームの中心に堂々といられるんだ。
何を言われても傷付く位置に、今の俺はいない。
「今の俺は常に無敵だからね」
引退が早かったのは選手としては不幸だった。
ただ、俺個人で考えれば、きっと不幸ではなかった。
元、とは言えフットボール選手だったからか、一人しかいない部屋だった。
手術すると決めて、すぐに受けて目覚めた時、あぁ、これで歩くことは出来ても、走れない足になったんだと自覚した。
手術してなければもっと酷かったんだろうけど、手術をした後のほうが実感が湧いたのは記憶にある。
「やだったぜー?なのに水は溜まるし、半月板はガッタガタだし」
たまに痛いし。
つーか、稀に激痛だし。
「そういや、こっち来てからのほうが楽だわ」
「イギリスは雨が多いですからね」
「関係あんの?」
「……一応……あります……確か」
「ふーん」
「気圧の関係、だったと、思います……」
うろ覚えだからか、少し歯切れが悪い。
まぁ、良いけど。
「今も水溜まっててさ。そろそろ抜かないと歩くの辛いんだよねー」
「えっ!?」
「まだ大丈夫だっての」
「あの…」
「ん?」
「無理はしないでくださいね」
ふわりと笑うな、そんな所で。
普段はふにゃふにゃしてんのに、何でそんな顔で笑うかなー。
「わかってんよ」
「達海さんはすぐに我慢しちゃうんで」
ちょっと心配です…。
信用ねぇなぁ。
あ、ごとーからも有里からもなかったわ。
足に関しては全く信用されてない。挙げ句、少し我慢しただけで有里には怒鳴られ、ごとーには心配され。
椿にも心配されて。
「信用ねーなー、俺」
「違いますよ。ただ、心配なんですよ」
だって、辛いのを辛いと言わないなんて辛いでしょう?
とか何とか。
「辛い、ねぇ…。後悔が無いから辛いは無いかな。まぁ、現役の時は何回かしんどかったし、凹んだけど」
ただ、悲しくて寂しかったのだと思う。
ついでに言うなら嫌になったのだ、とも思う。
孤独に押し潰されそうだった。
気付けばチームでは無くなっていた。
気付けば一人だった。
気付けば独りになっていた。
そんなつもりはなかったのに。
チームの為にやったのに。
好きなチームに、スカウトしてくれた笠さんに、会長に、おやっさんに、チームメイトに、サポーターに…。
なのに、最後は散々だった。
一瞬、俺は何のためにフットボールをしていたのかわからなくなった。
何のためにイングランドに来たかわからなくなった。
絶望感は一瞬にして俺を飲み込んだ。
襲ってきた虚無感は違和感無く胸にはまり、代わりに何かを押し出した。
それはイーストハムにたどり着くまで蝕み続けて。
後藤と有里が日本から迎えに来るまで居座った。
日本に帰って来ても否定や拒否は続くことになり、監督としては気にはならなかったが達海猛としては傷付いた。
それでも最近はめっきり無くなったし、選手も着いてきてくれるようになった。
代表選手を輩出させられたことも本当に嬉しかったんだ。
それはこれからの俺を支えて行くのだろう。
絶望感が消え去った今、またあんな思いはごめんだ。
「大丈夫ですよ。多分…ですけど」
「そこははっきり言えよぅ」
「絶対って無いじゃないですか。絶対にする努力は出来ますけど」
にへらっと力無く笑う椿を見て思った。
絶対にする努力。
あの時、もっと何か出来たのだとして。でも、努力が足りなかったのだとして。
今、せっかく戻ってきたのに。
また努力を怠るつもりか。
大人の事情を理解した。
それに立ち向かう術も、守る術も理解した。
昔とは立場も変わった。
努力の仕方も自ずと変わったのだ。
「うん。そだね。努力、だよな。椿、お前凄いね。大人だわ」
「いや、二十歳なんですケド……」
「わぁってるよ。そうじゃなくてさ」
絶対はない。
だから、あれは無駄だった、とか。
あの思いも、絶望も、苦痛も、絶対に無駄だったわけじゃない。
きっとこれからも、小さな苦痛や絶望を味わうのだろうし、また大きなものもあるかもしれない。
でも、ならないために、絶対ならないために努力するのは無駄じゃない。
椿だって大なり小なり味わったはずだ。
だけど、ここで笑っている。
自分だって笑っている。
過去は過去だ。
その傷も自分だ。
どうせ、後悔はないのだ。
明日からまた、いつもの自分がやってくる。
多分、いつものようにするのだ。
絶対なんて、ないけれど。
イミフ。ただ、気持ちのまま書きました。
椿がマジ他人1000%。
後悔と反省とか色々自分の中の考えとか達海の考えとか椿の考えとか書いたら、ただの長い文章に。