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気功治療への道案内/十二日目
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◆基本的な経穴(ツボ)の取り方
私が夏季休暇を頂いている間に、季節はゆっくり動き、秋雨前線が日本列島に横たわり、またまた九州に大雨をもたらしていた。
「今日から少し難しい話になりますが、なるべく解りやすくゆっくり話を進めていこうと思っていますので、またいつでも口を挟んで下さいね。」
二人の娘がノートを広げて学ぶ体勢になったのを見て、私は言った。
すると、佳与が直ぐに口を開いた。
「難しいってどういうことですか?」
「寸関尺での脈の配当や五行の相生相剋の関係などが頭に入っていれば問題ないんですが、それをいちいちノートを見ながらになると、結構、面倒くさいというか、ややこしいパズルのようになってしまって、混乱するという意味ですよ。」
私は佳与に顔をむけて笑い、話を続けた。
「今日は、脈診による気功治療の柱になる話です。
つまり、証を立てて、それに応じた治療に必要な経穴を選んで治療をするという、その基本理論を覚えましょうということなんですよ。」
「今までの集大成ですね。」
と、茉奈が言った。
「臨床ではありませんので、まず、基本の基本をお話ししますね。」
そう言って私はホワイトボードに〔肺虚証〕と記した。
「まず、肺虚証ですが、これは、コレまでに学んだように、寸同士の肺と心の比較では肺が虚、関同士の脾と肝の比較では脾が虚で、尺同士の心包と腎は平、即ち、比較なしという脈で、つまり、脾と肺の二つが相生的に並んで虚になっている訳で、この場合は脾が母で肺が子に当たりますから、子である肺の名前を取って肺虚証と名付けるんですが、そこまではいいですか?」
と、私は佳与に訊ねた。
佳与はノートの五行の図を見ながら、肺と心で肺、脾と肝で脾、肺と脾は並んでいて、肺が子だから肺虚証…と、指でノートを押さえながら確認していた。
「それが肺虚証の基本で、それのバリエーションというのか、変化形は幾つもあるんですよね?」
と茉奈が訊いたが、それを一緒に離すと更に混乱するので、それはまた基本が終わってから離すことにしますと、私は答え、話を前に進めた。
「さて、肺虚証と決まったら、それに対する治療です。」
「肺経と脾経を補う、つまり、二つの経絡に気を入れる訳ですね?」
佳与が解ってるよとばかりに背筋を伸ばして言った。
「では、どのツボを用いると思いますか?」
私が訊ねると、
「肺経の原穴である太淵と脾経の原穴である太白ではないんですか?」
と、茉奈が答えた。
「ツボはそれで良いんですが、実は、それは原穴として使っている訳では無いんですよね。」
私が言うと、茉奈がノートを見ながら、
「二つとも原穴ですが…」
と、怪訝そうな顔をした。
「確かに、太淵も太白も原穴なんですが、肺虚証の治療として用いる場合には、原穴とは違った意味合いでツボを取っているんですよ。」
二人は意味不明といった感じだったが、それは当然のことだった。
「以前、虚したるは、其の母を補えという話をしたと思いますが、この場合、子である母を補うことを治療の主眼に置くんです。
で、この場合、肺が子になっているんですが、肺は五行で言えば金ですよね?
そして、金の母は土になりますよね。」
佳与はノートに目を落としていた。
「そして、これは初めて出て来る話なんですが、それぞれの経絡の中に、木火土金水の五行の性格を持っているツボがあるんですよ。」
「ということは…」
と、茉奈が口を挟んだ。
「肺は金に属しているけれど、その金である肺経の中に木のツボ、火のツボという具合に、木火土金水のツボがあるということですか?」
「はい、そうなんです。
そして、金の経絡を補うには金の母である土のツボを用いるということで、その肺経の中の土のツボが太淵になるんですよ。」
「ということは、肺経の場合、原穴も太淵、土穴も太淵だということですか?」
と、茉奈が確認するように言った。
「はい、使うツボは同じ太淵なんですが、意味合いとして、金の経絡の母穴である太淵を用いているんだと理解しておかないと、他の虚証の場合、原穴と違うツボを用いますので混乱してしまいますから、五行的な考えでツボを取るんだということを理解しておいて下さいね。」
私が言うと、
「その肺経の中の五行のツボを教えて下さい。」
と、佳与が言った。
「それは、次回に表にして来ますので、今日は、その考え方について、しっかり理解して下さい。」
と、私は応え、話を次に進めていった。、
「次に、脾経に対しても太白を用いるんですが、これも、原穴ではなく、土穴としての性質を持っている太白を用いることになるんですね。」
私が言うと、ちょっと待って下さいというように茉奈が手を挙げた。
「脾も補うンですから、脾は土ですから、土の母に当たる火のツボを使うんじゃないんですか?」
「いい質問ですね。
確かに脾も補うんですが、今の治療の主になっているのは肺虚でしたよね。
その肺に気を補う訳で、その為に、母経である脾経を用いるんですが、この場合、火を使うと、肺の金に対しては相剋になってしまい、少し意味合いが違ってくるんですよね。
だから、脾に対しては、同じ土のツボを用いる方が良く、そうすると、そのツボは太白になるんですよね。」
「やっぱり、訳わかんなくなってきましたよー。」
佳与がため息混じりに声を上げた。
「○○虚証の場合、基本的なツボの取り方は、《自経の母穴と母経の自穴》ということになっていて、まずはそこからツボを取るようにするんです。」
「ちょっと、良いですか?」
と、再び茉奈が手を挙げた。
「すると、肝虚証の場合だと、肝経は木だから、その母になる水のツボと、肝の母になる経絡である腎経の水のツボを使うということですね?」
「そうそう、そういうこと。」
私が笑いながら言うと、佳与も手を挙げた。
「私だって考えれば判るよ。
えーと、例えば腎虚だと、腎は水だからー、その母に当たる金のツボと、肺経は金だから、その自穴を使うということで、金のツボを使えばよいってことになりますよね?」
「素晴らしい!
私は大きな声で手を叩いた。
「五行全部のツボについては、次の時に表を持って来るとして、今日は、各虚証の時に用いる基本の二つずつのツボをノートに書いていって下さい。」
そう言って、私はホワイトボードに、次のように記したのである。
●肝虚証(木虚)→曲泉(肝の水穴)、陰谷(腎の水穴)
●心虚証(火虚)→中衝(心包の木穴)、大敦(肝の木穴)
●脾虚証(土虚)→大都(脾の火穴)、労宮(心包の火穴)
●肺虚証(金虚)→太淵(肺の土穴)、太白(脾の土穴)
●腎虚証(水虚)→復溜(腎の金穴)、経渠(肺の金穴)
それをノート何写しながら佳与が訊いた。
「先生、心経を使う時、心経のツボではなく心包のツボを用いているのは何故ですか?」
「それはいいところに気がつきましたね。
でも、その話はまたにして、、今日は、肝虚には曲泉、陰谷、肺虚には太淵、太白のように、取り敢えず、基本になる法則的なツボの名前を覚えて下さいね。
そして、次回はツボの位置や他のツボの取り方なとを
学ぶことにしましょう。