◆この短編は、以前の日記で2008年9月に投稿した記事の再投稿です
2009年4月に投稿した『夕立』の前編となっております。
『Oh My Precious Time』
砂浜
波音
夕陽は赤く
「ちょっとだけ!ちょっとだけな!!」
でも今は任務帰り。
ブックマンズとの任務も終わった圭優は、波打ち際で必死にそう頼み込んでいた。
だって海!
白…くは見えないけど砂浜!!
早くしないと夏が終わってしまうというのに、まだ一度も海と触れ合ってないなんて
「頼む!俺に青春をくれ!!」
夏の海=青春という方程式は少し古いんでないかい?
「…汽車を一本見送る。その間だけだぞ」
「うっわマジ!?やったーやったーブックマン好き!!」
自分より小さい老人の体にぴょんっと飛びつき、髪の毛の少ない頭をなでなで。
そして殴られる前に団服を砂浜に脱ぎ捨てて、
「ラビ、来いよっ!」
「へ、オレもっ!?」
ブックマンの横に突っ立っていたラビの腕を引っ張って、砂浜へと走り出す。
「ちょっ、ブーツ脱いでないし、団服も」
「わーったわーった!はいはいはい!!」
圭優は自分の靴を波打ち際で脱ぎ、靴下も適当に突っ込み、ズボンの裾を捲り上げる。
海なんて入ったらどうせ濡れるし、一本汽車遅らせたとしても乾かないだろうし。
そんなことを思っていたラビだったが、
「早く!早く早くっ!!」
波打ち際で嬉しそうに笑う姿を見たら、断ることなんてできなくて。
窮屈な何もかもを砂浜に置き去りにして
夕陽の中に飛び込んでみるのもいいかもしれない。
跳ねる水も圭優の髪も何もかも橙色で、きれいだ。
「馬鹿共が!!!!」
結局我を忘れてはしゃいで、気がついたらびっしょり。
途中でラビに足をかけたのがいけなかった。
いやでもそこから俺も引きずり込まれたわけだから、おあいこだ。
「お前たちは汽車の屋根にでも乗っとれ!」
完全に怒ったブックマンは先に駅へ。
汽車の時間までそうない。
波音が後ろ髪を引くけど、仕方ない帰るか。
「…圭優、何してるんさ?」
「あっいやいやいや別に!!」
砂浜にしゃがみ込んでいた背中に声をかけると、圭優はぱっと立ちあがって手をパンパンとはたく。
足元の砂には、何か書いてあるような。
「なに書いたん?」
「何でもねぇよ!ほら帰んぞ!!」
そうは言われても、何をあんなに熱心に書いていたんだかが気になって気になって。
ぐいぐいと体を押してくる圭優の体を逆に押しのけて
「んーなになに」
「うわわわわわちょっ見んな…いでっ!!」
押されて支えられなくなった体が砂に尻もちを付き、ラビもバランスを崩して同じように転ぶ。
それと同時に、寄せてきた波が砂浜の文字をさらっていってしまった。
残ったのは、a v i
「…まさか、オレ?」
「ばっ…んなわけねぇだろ馬鹿!!」
更に濡れたズボンを絞りながら立ち上がった圭優は、靴と団服を持って砂浜をズンズン歩いて行く。
その後ろ姿の耳が赤いのは夕陽のせい?
それとも?
「じゃ、オレってことで」
ラビは頭にLを加えて自分の名前を完成させると、立ち上がって圭優の後ろをついていく。
波がまた砂浜の文字を撫でていく。
長い影を作る夕陽が水平線に沈んでいく。
俺が砂浜になに書いたか?
夕陽と波と砂浜に聞いてみ。
◆以下私信
捺様、大変ご無沙汰をしております
入院中ということで、そんな中私なんかの文章が楽しみのひとつとなれていることが、不謹慎ながら嬉しいです
どうか、どうかお大事になさってくださいね
私ができることがもしあればなんなりと言ってくださいねお願いします!
またもしご都合がよろしければ、いつでもいらしてくださいね