某所にあげている戦闘系審神者の番外編。そちらを読んでいなくても多分読めます。
時間軸が結構先だと書き上げてから気付いてしまった…。しかしもったいない精神でこっちにうpします。
秋田くん可愛いよ秋田くん。
よろしければ追記からどうぞ。
真っ青な空に真っ白な雲がもこもこと浮いている。木々は鮮やかな緑を伸ばし、日差しはじりじりと肌を焦がす。
只今、僕の本丸は夏真っ盛りだ。
「主君!」
呼びかけにそちらを向けば、桜色の髪を揺らしながら駆け寄ってくる幼い姿が目に飛び込んできた。夏の日差しの中、額には薄らと汗をかいている。後で麦わら帽子を買ってあげよう。
百年以上を生きる付喪神と言えど、短刀の器は幼い子供のそれだ。そこに収まる霊魂は器に見合うようになっている。某柄まで通す短刀のように、大人びた発言や行動をしていても、その根底は見た目相応なのだ。
「おかえり、秋田。暑かったろう」
「はい! でも、夏って春と違って色んなものが鮮やかに見えるんですね!」
にこにこと楽しそうに笑う秋田の額をタオルで拭って、冷たいグラスを差し出す。琥珀色のそれを口にした秋田が、驚いたように大きな目を見開いた。
「生姜の味がします! でも甘いです!!」
「冷やし飴、という飲み物だよ。関西の方では一般的なものだそうだ。初めて作ってみたのだけれど…どうかな?」
「とっても美味しいですよ!」
「それならよかった」
頭を撫でると、汗で少し湿っていた。こんなにも暑いのだしビニールプールでも出してあげた方がいいのかな…。
「あ、そうだ主君」
「なんだい?」
「こんのすけはどこにいるんですか? 今日、花火をするって約束をしていたのに…」
「花火は夜にやるものだよ。こんのすけは政府の方に用事があるそうで、今は現世だ。花火までには帰ってくるよ」
「そうなんですね。よかった!」
濡れ縁に座って足をぷらぷらさせる秋田は、この離れから見る景色も相俟って、もうどこからどう見ても夏休みで田舎にやってきた小学生だ。
朝早く起きてはこんのすけと一緒にラジオ体操をして、お昼までは一緒に出陣。お昼ご飯にそうめんを食べ、お昼過ぎまで庭であちらこちらと遊んでいる。そして二度目の出陣を終えると、ご飯を食べてから一緒にお風呂に入って就寝。寝る前に絵日記を書くのを欠かさず、蚊帳を吊るしてあげないと拗ねたりする。
寝る事によって充填されたエネルギーを一日で全て使い切ってしまうところが、まさに小学生のようだ。そんな生活をしているからなのか、秋田の小さな体にはきらきらした霊力が溢れんばかりに満ちている。勿論、戦場でも大活躍だ。この前なんて大太刀を一撃で倒してしまった。心が健康なら体も、という事だろう。いい事だ。
「こんのすけが戻ってきたら戦場に行くからね。用意しておくんだよ」
「はいっ!」
それにしても夏は暑くて敵わない…。
順当に廻る四季の中でも僕は一番夏が苦手だ。冬生まれだし、幼い頃に住んでいたのは夏でも比較的涼しい場所だった。日本の夏は湿度が高くて参ってしまうよ…。
今もこうやって額と項に冷却シートを貼って暑さをなんとかやり過ごしているけれど…あと二月もこの暑さが続くのだと思うと、項垂れてしまう。思わず庭にプールでも作りたくなっちゃうね!
本丸に訪れる四季は審神者の好みによって変えられるのだけれど、そんな風情のない事はしない。春が咲き、夏が燃え、秋が暮れ、冬が眠る。それが一番だ。
「今日はこの辺りで戻られた方がよろしいかと」
「そうだね。この時代も残り僅かだから、無茶をせずに進もうか。こんのすけ、秋田、帰るよ」
「はい!」
青龍戟を振って付いてしまった血を飛ばす。帰ったら念入りに手入れをしておかないと。
肩にこんのすけを乗せ、空いている手を秋田と繋ぐ。外の世界に興味津々な秋田は、目を離すとすぐにどこかへ行ってしまいそうになるから、こうやって手を繋いでいるのだ。柔らかな手は、見た目に反してひんやりと冷たい。じっとりとした戦場の空気の中、多少は涼しくなる。
「主君、帰ったら花火ですか?」
「先にご飯を食べてからだよ。今日は何が食べたい?」
「わたくしは油揚げと白菜の煮物が食べとうございます!」
「僕ははんばーくがいいです!」
「じゃあ、そうしようか」
「やったー! はんばーぐには、目玉焼きを乗せて下さいね!」
「わたくしのものは油揚げを大目にして下さい!」
「はいはい」
何時もより少し早い帰城だからか、日はそれほど落ちていない。真っ赤な夕日がゆっくりと、ゆっくりと時間をかけて落ちていく。日中の茹だるような暑さも和らいだような気がする。この分なら夜は涼しくなるだろう。
「主君」
「なんだい?」
声をかけてきた秋田は前を見ている。その横顔はにこにこと、とても嬉しそうなもので。
「僕、主君と出会えてとっても嬉しいんです」
「うん」
「春は柔らかな色がたくさんで、夏は鮮やかな色で溢れています。きっと秋は落ち着いた色が、冬は冴えた色がいっぱいなんでしょうねぇ」
「うん」
「僕は、外の世界を教えてくれる主君が大好きです。刀として使ってくれる主君が大好きです。あ、こんのすけの事も大好きだよ!」
「ありがとうございます。こんのすけも秋田様が大好きですよ」
「えへへ…。……外に出られてわくわくします。知らない事がいっぱいで、毎日とっても楽しいんです!」
「うん」
「だから…だから、僕、主君が大好きなんです」
ふにゃり、と蕩けるような笑みで秋田が僕を見た。
「今は戦争中です。僕も刀剣男士として、主君のお役にたってみせます」
「うん、期待しているよ」
「はいっ! …主君といると、毎日がキラキラして楽しいです。出陣も、自分が強くなっているって分かるから、楽しいです」
「うん、そうだね。君はもっと強くなれるよ」
「頑張ります!」
生憎両手が塞がっているから、秋田の頭を撫でてあげる事は出来ない。代わりに少し力を込めて手を握る。
伸びる影が段々と夜に同化していく。ゲートを潜る頃には、空は群青色に染まっていた。
「さあ、手を洗って着替えておいで」
「はーい!」
今日は花火をたくさんしよう。締め括りは線香花火だ。
夏は暑くて苦手だけれど、一匹と一口と過ごす夏は悪くない。