話題:創作小説
前置き
※こちらはBL二次創作です。
本文中に捩じ込みたかったけど吉良視点のせいで入れられなかった補足。
・転生パロ
・市丸さんだけ記憶持ち
・あの日に置いてきたイヅルの事だけずっと探してた
・メリーバッドエンド
相変わらずよろしくないネタぶっこんでるので閲覧注意。やっぱり病んだ。
吉良イヅルは外界というものを知らなかった。
幼い頃に両親を亡くし独りぼっちだった吉良を、市丸が引き取ってからその奇妙な同居生活は始まった。
市丸は吉良に一切の外出を禁じる変わりに吉良の求める物はなんでも与えた。退屈だと言えば本や玩具を与え、寂しいと言えばいつまでも傍に寄り添い温もりを与えた。吉良が成長し、家事をこなせるようになってからは二人で料理をする様にもなった。それでも一つだけ変わらない制約があった。
「外は危ないもんしかあらへん。せやから何があっても外には出たらあかんよ」
市丸は何度も何度も繰り返し吉良にそう言い聞かせた。吉良もそれを忠実に守った。
自分の今の状況が普通でない事は吉良も薄々感付いていた。
しかし自分を守ってくれる市丸がするなと言うのならそれが正しい事なのだろうと、理由はわからないなりに理解しようとした。自分を大切にしてくれる市丸の事が大好きだったし、市丸が望むなら今のままでもいいと思ってもいるからだ。
(市丸さん、早く帰って来ないかな)
左手の薬指に嵌められた指環を磨きながら時計を見上げる。それは吉良が16歳になった時に市丸から贈られた物だ。これから先も二人で居るための誓いだと吉良の誕生日にお互いの指に嵌めたペアリングだった。市丸の瞳の色をした空色の宝石があしらえられた吉良の宝物だった。
「イヅル、たぁだいま」
玄関が開き柔らかい京訛りが響いた。反射的に居間を飛び出し吉良は靴を脱いで部屋に入ってくる愛しい人の胸に飛び込む。
「市丸さんお帰りなさい!」
「ん。ええ子にしてた?」
「はい」
ぎゅうと抱き付きながら頷けばよしよしと頭を撫でられる。すりすりと胸に頬を寄せればキツく抱擁された。その苦しさもまた嬉しくて頬が緩むのを抑えられない。
「イヅル」
髪を梳く指がゆっくりと耳をなぞり顎を捉える。乾いた親指が唇を撫でるのを合図に目を伏せると柔らかいものが重ねられる。
ちゅっちゅっと角度を変えながら唇を吸われ甘い吐息が零れる。熱い舌が下唇を舐め歯列を割って入って来る。口腔をなぞり未だ熱に慣れず縮こまる舌を絡みとられ嬲られればゾクゾクとした甘い痺れが背中を駆け抜ける。
キスされると頭の中が市丸でいっぱいになる。脳内で何度も何度も市丸の名を呼びながら教えられた通り舌を動かす。
「ん……っ、は……」
僅かに離れた唇を夢中で追えばにたりと笑う気配を感じた。力の抜ける指で必死にしがみつき口付けに応える。
キスの仕方を教えてくれたのも市丸だ。知らない事をわからない事を教えられるうちにどこもかしこも市丸好みに仕込まれて、その事に不満はないが本当に自分なんかで良いのかと吉良は時々不安になる。
贔屓目を抜きにしても市丸は容姿が優れていると吉良は思う。性格も優しく格好いい市丸が外に出れば放っておく女はいないんじゃないかと、いつかそんな不安を吐露した吉良にしかし市丸は「イヅルしかいらんのや」と優しく微笑んだのだった。
「市丸さんお腹は空いてませんか? ご飯出来てますけど……」
「んー、まだええわ。イヅルといちゃいちゃしてたい」
甘えていたい唇を離して問えば体を抱えあげられ居間へと運ばれる。ソファに腰を下ろした市丸の膝の上に座らせられると熱い口付けが降ってくる。首に腕を回し唾液さえ奪われる濃厚なそれに酔いしれているとゆっくりとソファに押し倒される。艶やかな金糸が散らばる。
「……はっ、……っはあ……」
夢見るような目で市丸を見上げればくしゃりと左目にかかる髪を撫で上げられた。
「期待した?」
「……少しだけ」
「まだや。もうちょい我慢しぃ。イヅルがもう少し大人になるまで」
戯れの様な行為は何度もした。奉仕の仕方も感じる方々も時間をかけてじっくりと仕込まれて来た。それでも本格的な行為に及んだ事は一度もなかった。イヅルが大人になるまでと、市丸は最後まで手を出す事はしなかった。
吉良は今年18歳になる。次の誕生日まであと少しだった。そうしたら漸く市丸に大人と認められる。市丸の想いに応えてあげられる。自分が欲しいと全身で訴える市丸に全てを捧げられる。その日を今か今かと吉良は待ち続けていた。
今だってそうだ。こうして腕に抱かれている間も自分は市丸に抱かれたくて仕方なかった。注がれる愛情に応えたかった。自分も愛しているのだと身体中を使って伝えたかった。言葉だけでは足りないくらい愛おしくて愛おしくてたまらなかった。
「好きです。市丸さんが大好きです」
自分に覆い被さる市丸の銀糸に指を絡ませながら今出来る精一杯を伝えれば、空いた手に指を絡ませられる。
「ボクもイヅルが好きや」
触れるだけの口付けを贈られ体を抱き起こされる。
「もう二度と手離さへん。他の誰にもやらん。ボクだけのイヅルでおって」
「僕には市丸さんだけです」
「そうや。お前にはボクだけ。他には何も必要ないやろ?」
「はい」
どこか切ない声色に不安になって顔を上げようにも、力強く胸に頭を押し付けられて叶わない。仕方なしに腰に腕を回しぐりぐりと額を押し付けるとええ子と優しく頭を撫でられる。
「イヅルはええ子やね。いつもボクに素直で忠実でほんまお利口さんや」
「そんな……僕はただ市丸さんに喜んで欲しいだけで……」
「いじらしい事言うてほんま可愛ええなァ、イヅルは」
頭を押さえつける指が頬を撫で、漸く顔を上げる許可を貰った吉良がゆっくりと市丸を見る。慈しみを湛えた優しい顔が視界いっぱいに映って胸の奥がきゅんと苦しくなる。どうしてこの人はこんなにも優しくて暖かいのだろう。赤の他人だった自分をこんなにも大切にしてくれるのだろう。
奥から奥から込み上げてくる感情をそのままに見詰めていればそっと目許を拭われた。
「イヅルは泪も綺麗やね」
言われて吉良は漸く自分が泣いている事に気付いた。嬉しくて、幸せで、自分ばかりがこんなにも貰ってしまっていいのだろうか。
この気持ちの半分も、この人に返せているだろうか。
「……市丸さん僕に、何か出来る事はありませんか」
「どないしたん、急に」
「だって、だって僕ばっかりこんなにも幸せを頂いてしまって、僕は貴方に何も返せてないのに……!」
ボロボロと零れる涙を止める事も出来ずしゃくり上げながら訴えれば困った様に市丸が笑った。
「イヅルが居ってくれるからやん」
腰に回った腕に力が込められる。吉良の目から溢れる涙を唇で拭いながら市丸が言葉を紡ぐ。
「イヅルがボクの傍に居てくれるから、傍で笑てくれるからボク幸せやねんで? ボクだけでも、イヅルだけでもあかん。わかるな?」
「…………っはい」
ああ、この人を好きで良かった。自分が彼を共にある事が幸せで、彼が自分と共にある事が幸せなら、これ以上の幸福などあるだろうか。
両親を一度に喪い生きる術すらなかった自分を見つけてくれ、共に生きようと言ってくれた市丸に吉良は心の底から感謝した。市丸が居なければ自分はこんなにも幸福にはなれなかっただろう。
そうして真実を知らない吉良は盲目的に市丸に溺れていく。市丸の思惑通りに。
父景清と母シヅカの死が事故だと信じている吉良は知らない。その死が仕組まれていた事に。市丸が吉良を手に入れるために裏で糸を引いていた事に。
何も知らず自分を一途に愛する吉良を愛おしみながら市丸は内心ほくそ笑む。あの日からずっとずっとこの手に抱きたかった存在が腕の中にいる。
長い年月を掛けて自分色に染め上げた吉良の総てが直に自分の物になる。焦る必要など何もない。もう自分を、自分達を縛る物など何もないのだから。この鳥籠の中で、ただの人間としてこの愛しい子を愛し続けよう。
「なぁイヅル、次の誕生日イヅルの両親の墓参りでも行こか」
「え……良いんですか? 外、ですよ?」
「ボク付いてるし、少しくらいなら構わん。それに長い間会わせてやってへんやろ? 甲斐性無し思われるん嫌やし」
「……っ嬉しいです」
市丸の思わぬ提案に吉良は思わず心が躍った。外出もだが、写真でしか見れなかった両親の墓参りに行けるのだ。伝えたい事は沢山あった。今まであった事、これからの事、そして何よりも自分の最も愛する人の事を。
(父上、母上、僕はこの人を生涯をかけて幸せにします。だからどうか見守っていて下さいね)
窓の外の世界には星がさんざめく煌めいていた。吉良は市丸の肩越しにそれを眺めながら、背に回した手に力を込めた。愛しいこの人の温もりを手放してしまわぬように、これからも共にあれるように。そう願いながら、好きです。そっと耳元に囁いた。