スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

死期近き日の恋 03


キキィッ!!と、車が止まる。
高速から降りた車は、減速する事も無く細い山道を走り、急なカーブで漸く動くのを止めた。


「ここがそうだそうですよ………って、ユーリ?」

「―――気持ち悪い………」


扉を開け、爽やかな山の風を受ける。
だが、一向に出て来る気配の無い助手席に座る彼女に、コンラッドは助手席まで回り込み、その扉を開けた。

そうすれば、幾分顔色の悪いユーリがコンラッドを見つめた。


「大丈夫ですか?酔いました?」


そっと、蒼白くなった頬に手を這わせる。
それに目を細めながらも、ユーリは弱々しくその手を握った。

それから、手を離させようと引っ張る。


「コンラッドさん………」

「どうかしました?やはり、今日は………」

心配気にユーリの顔を覗き続けるコンラッド。
そんな彼に、ユーリは僅かに逡巡した後、口を開いた。


「―――沢山の想いが、ここに集まってるんです。
生きている人の心は、触れなければ分かりません。それに、一応封印もしてありますから、余程の事が無ければ分かりません。
それは、地に集う想いも同じです。
"今"は力を封じているので、本来ならば伝わる事は無いのですが………」


そう言いながら、チラッと運転席の先、広がる森を見つめる。
そして、再びコンラッドに向き直った。

キュッ………と、弱々しく左腕を握る。


「亡くなった方の想いや、その遺族の想い。
それは、何よりも強い怒りや哀しみ、負の感情を孕んでいます。

―――負の感情を孕んだ想い程、知って哀しい事はありません」


そう告げ、少し哀しそうに微笑んだユーリは。
漸く車から出て、ガードレール越しに森を見下ろした。


「ここの仕事は、どんな物でした?」

「あ、はい。今回の仕事は、一ヵ月程前から行方不明になっている女子高生の、発見及び事件の調査です」

「一ヵ月………」


―――白骨化の可能性も、視野に入れなければ


キッ!!と、強く前を見据える。
そして、先程強く握った左腕から、いくつもの蛍石で作られたブレスレットを取り外した。


「ユーリ?」

「少しの間だけ、静かにしていて下さいね?
下手すると、飲み込まれるかもしれませんから」


フワッと微笑み、両手の手袋も外す。
そして不意に、森に向かって真直ぐ手を伸ばした。

ザワッと、木々が揺れ始める。




死期近き日の恋 02

「彼が?」


ツィッ……、とユーリの目が、僅かに細められる。
黒い布に覆われた手が、柵から伸びようとし―――止めた。


「彼がって、ユーリが選んだんじゃないのか?」

「写真は入ってなかったもの。
ただ新しい……私を知らない人達の書類を渡されて、好きなのを選べって言われたの」


ガシャン!!と重い音を立てて、幾つもの鍵が開かれる。
完全に扉を開けれるようになり、唯は中に手を入れながらも嘆息した。


「ま、仕方ないな。
―――どうしますか?コンラート。断るなら、今の内ですが」


ユーリの手が重なったのを感じ、コンラッドを見ながらもその手を引く。
ユーリが自分の横に立ったのを感じ、その躯を支える為に肩に手を回した。


「俺は………、」

「無理をなさらないで下さい?
誰だって、こんな私と仕事するのは気味悪いでしょうから」


ねぇ?と、甘えるように唯を見上げる。
あくまで自分を卑下するユーリに、唯はわしゃわしゃと頭をかき混ぜた。


「きゃっ!?」

「ユーリの言う通り、断っても構いません。
上も、それを認めていますから」



―――人の心を読み取る奴となんて、一緒に仕事ができる筈も無い!!


僅かに、ユーリの顔が歪む。
それを目にし、コンラッドはゴクリと息を飲んだ。

そして、しっかりと唯を見据える。


「コンラート?」

「―――…一緒に、仕事をさせて下さい」




パチクリと、ユーリが瞬きを繰り返してコンラッドを見つめる。
その顔に、コンラッドはフッと微笑んだ。

そうすれば、ユーリの顔にほんのり朱がさす。


「ユーリ?」

「ぁっ………いえ。ただ、唯ちゃん以外に私と仕事をしたいと言う人がいるなんて、と思っただけです」


唯の呼び掛けに、ハッとなって応える。
そんなユーリを見て、唯はどこか寂しそうに、辛そうに、でも確かに微笑んだ。



「じゃあ、とりあえず一つだけやってみろ。
それでお前が良いなら、好きにすれば良いさ」


―――"最期"なのだから





そう言い、唯は一枚の書類を差し出した。



「一つ目の仕事です。
全て此所に記してありますが、何か分からなかったら電話を下さい。
これの目的は、行方不明となった彼女の発見、及び事件に巻き込まれたのならばその犯人の特定」

「死体でも?」

「えぇ。家族は、死体でも構わないから、一刻も早く娘を、と」



死期近き日の恋 01


初めて出逢ったその日に、私は恋に堕ちました。
























「時効寸前の事件の、一斉捜査?」

「えぇ。今まで散々利用していた術者が、"近い"らしくて。
生きて使える内に、可能な限りの捜査を再度行なう事になったんです」


そう言ったのは、見た目と実年齢が比例していない、生粋の魔族、唯。
彼は苦虫を噛んだような顔で、毒を吐いた。


「それって、確か幼くして死刑判決を受けたものの、警察の力になる事を条件に未だ生きてる………」

「―――そうです」


どこか怒ったような口調で、何か否定するように肯定を口にする。
だがその時コンラッドは、それを気にも止めなかった。


「それで、どうして俺が?」

「あの子の存在を知る者で、あの子と関わりたいと思う人はほんの一握りです。
ですから、あの子自身にその話をし、資料を渡したところ、アナタを選んだのです」


着いてきなさい、と言われ案内されたのは、光も射さない地下室。
今は使われないそこの、一番深い場所は。


まるで全てを拒絶するかのように、白く大きな扉で閉ざされていた。


「唯、ここは………」

「あの子がいる場所です。
そうそう。ここの暗証番号は、各自違いますから。
後で自分用に変えて下さいね?」


ピピピッ、と単純に数字キーを押し、自分のカードを差し込む。
それが出てくるのと同時に、目の前の屈強な扉は滑らかに開き始めた。

その奥には、更に地下に続く道。
緩い坂なそこは、先が何も見えなかった。


「ここまで厳重にする必要性があるのか?」

「―――本当は、どこにもありません。
ですが、彼らは自分や周りに無い力を拒否し、恐れますから」


唯が一歩進む度に、左右に掲げられた松明に火が点く。
それは最後に、一つの牢を照らし出した。


「随分と長い道だったな」

「慣れれば平気ですよ?―――ユーリ」


クスッと微笑んだ唯は、それから鈍く光る鉄に触れた。
そして、小さく名前を呼ぶ。


そうすれば鉄の柵の奥にも、光が灯った。




「―――唯ちゃん?」

多少明るくなった牢の、最奥。
まるで闇が存在するかのように、光の届かぬ場所。

そこから響いた声は、確かにコンラッドの前にいる人物の名前を読んだ。
それから、衣擦れの音が響く。



「―――っ!!」


闇から現れた少女に、コンラッドは確かに息を詰まらせた。


「双………、黒」

「―――新しい方?また度胸試し?」


そぅっ……と、艶やかに紅い唇が弧を描く。
そんなユーリに、唯は見やすいように、と僅かに横へ退いた。


「すまない、ユーリ。
今日から君と仕事をしてもらう、コンラート・ウェラーだ。
今年一般から特殊班に移って来た」




死刑囚×看守

『ユーリ』

16歳の双黒を持つ少女。
人の心を読んだり、物や死体の記憶を見る事が出来る。

その力故に、畏れられ死刑判決を下されたものの、未だ警察に利用され続けている。


『コンラート・ウェラー』

20歳の青年。この度めでたく特殊班員に。
迷宮入り、時効寸前事件一斉解決に、ユーリを起用する事が決定され、ユーリと行動を共にする事に………

言霊を操る、記憶操作等が得意。


『渋谷唯』

ユーリの実の伯父。
特殊班員の一人であり、ユーリが利用されるのを嫌う。
どうにも出来ない無力さに、時たま酷く落ち込む。

火を操る事が出来るものの、戦いは専ら日本刀を二本使う。




その他、色々とありますが………基本は多分コレ………?
前の記事へ 次の記事へ