スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

はじめに


※はじめに

 ここは趣味で運営する創作小説サイトです。
 基本自己満足でのんびりやっていきます。
 誹謗中傷荒らし晒し苦情その他諸々の迷惑行為はやめてください。マナーを守っての閲覧お願いします。

 過去サイトのものも加筆修正して随時アップ予定。


#更新   13/2/11  白昼夢『2-4』,『2-5』,『2-6』追加。睡蓮一つ追加。



◎小説一覧

#長編

■白昼夢の星回り  …輪廻転生
 ・登場人物紹介%前世記録
 ・本編
  プロローグ
  1-1 1-2
  
 1、邂逅
  1-1 1-2 1-3 1-4 1-5 1-6 1-7 1-8
  
 2、再会
  2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6 2-7 2-8

 3、仇敵
  3-1 3-2 3-3 3-4 3-5 3-6 3-7 3-8

 4、記憶
  4-1 4-2 4-3 4-4 4-5 4-6 4-7 4-8

 5、真実
  5-1 5-2 5-3 5-4 5-5 5-6 5-7 5-8

 6、執着
  6-1 6-2 6-3 6-4 6-5 6-6 6-7 6-8

 7、輪廻
  7-1 7-2 7-3 7-4 7-5 7-6 7-7 7-8

 エピローグ


 ・番外編

  



■黄白な私
     伍 陸 漆 捌 玖 拾 拾壱 拾弐 拾参 拾肆 拾伍





■睡蓮の制裁歌 …和風ファンタジー
 ・登場人物

 プロローグ

 第一章 死鬼
 月下の暗躍/隻眼の男/出会い/仲代/宣告/執行/死鬼/契約


  第二章 泡沫
 夢/花嫁/愉しませて/灰褐色/盟約/排除/思惑の真相/物申す駒/崩れる白/臆病者/夢の終わり


 第三章 落日
 同盟/末路/くすんだ世界/災い/残骸/断罪/残党狩り/裏切り/落日/まつ


 第四章 制裁
 殺意/気が変わった/逃走/白音/お願い/知っているか/茉将


 エピローグ






#シリーズ

 ■贈咲きの恋
   ・彼と彼女
   ・彼女と彼の友人


 ■満月に叢雲


 ■聖職者は夜に死ねない


#短編

睡蓮の制裁歌 月下の暗躍

用意された部屋に通され、辺りに人の気配がない事を確認して腰を下ろした。手元にあった煙管を一瞥して手に取るのをやめる。

酒のまわっていない身体は疲れを催促しているが、あまり眠る気にはなれなかった。一つ溜息を吐くと、背にした襖の向こうから足音。眼を閉じ徐々にこちらに近付いて来る気配に意識を集中する。

足音は一つ。淀みない足取り。そして足音は背後の襖の前でぱたりと止まった。

「今宵は月が綺麗ですね、」

 くすくすと耳を擽る変声期を過ぎても高めの声と隠しもしない見知った気配。

 襖の向こうの声はこちらの返答など端から期待していないのだろう。淡々と言葉をのせる。

「まるで地上を呑みこんでしまいそうな満月は、妖しくも美しく手が届かないのがもどかしい。しかし手の内にいれない方が月の魅力でもある」

「…何しに来た、魁《カイ》」

「椎名《シイナ》に頼まれて茉将の身辺警護にきましたぁー」

 先程までの神妙さが嘘のように間延びした声が暗闇に響いた。

 続いてまた、くすくすと笑い声が夜の冷たい空気を揺らす。

「で、月は手に入りそうかい?茉将」

 魁と呼ばれた彼が指す「月」に茉将は、脳裏に意味をなさなくなった眼球を弄ぶ男の顔を思い描いた。

 頭の中で何度も、何度も、殺し続けた男の狂喜に満ちた妖しい顔。途端に胸がざわつき、何十年経っても消える事のない焔の音が耳奥で響いている。

「………そうだな、」

 茉将が思うに魁はどう応えようと興味などないだろう。彼にとっての興味の対象は、彼の本能を掻きたてる戦と、ここで座る茉将だけだ。

 他人の心など詠める事などないから分からないが、父の弟の子である彼との長い付き合いの中で茉将が知るのはこの二つだけであった。

「手が届かない時は、討ち落とせば問題ない」

その茉将の返答に魁は「そう」と予想通り興味のなさそうな返事をしただけだった。

 しかしそれが出来ないから、宝月という普段は眼中にも置かないような肝の小さい男のご機嫌を取っているのだ。一瞬で月を落とせるならば、こんなくだらない余興には付き合っていない。

 茉将が臨むのはただ一つ。夢の中でも現実でもこの心中を犯す存在の抹消。

 その為の手筈に戸惑いなど、既に幼いあの日から―――仲代《ナカシロ》家当主の肩書を得たあの日から、もう手中には存在しなかった。

 

睡蓮の制裁歌 月下の暗躍

 今宵は月が綺麗だ、なんて柄にもない事を発した唇を一瞥して口元に苦笑を浮かべた。

 昼間地上を照らしていた太陽はなりを潜め、妖しく輝きを放つ月が姿を見せていた。昼間はじっとしていても汗が噴き出るような暑さだったが、夜は大分気温が下がって少し寒いくらいだった。風邪を引かないようにと側近に掛けられた羽織の裾をそっと内側へ引っ張った。

そして杯に注がれた酒をちびちびと飲んでいると、先程柄にもない事を呟いた彼がぐいっと酌を差し出してきた。

それを片手でやんわりと断った。すると彼は大袈裟に笑いだした。その頬は心なしか赤い。

「戦場では『死鬼』と名高い将軍閣下もやはり人の子でしたか!」

「…将軍とは大袈裟です。宝月《ホウヅキ》殿」

 この大陸で今将軍と呼ばれるのはお二人のみでしょう、そう付け足すと宝月はにこにこと「それもそうでしたなあ!」と手酌した杯を煽った。

 酒で暖かくなったのだろう彼は、今の時期昼間に着るような薄手の着物一枚だった。対しての己は普段から愛用している黒に無地の着物と袴に、戦場で着ている楔帷子と鉄製の胸板。更にその上に着物より深い漆黒の羽織を肩に掛けていた。

「それにしても今宵は蒼酉《ソウジ》の末だけあって月が綺麗ですな。いつもの柚子酒が上手く感じる」

この大陸は、4つの月と80の日からなり一年は320日となる。4つの月はそれぞれ朱鹿《シュカ》、蒼酉《ソウジ》、黄瓶《キヘイ》、緑龍《リャクリ》と呼ばれ、気候や気温は地域によっても月によっても異なる。

その二つ目の月、新緑芽吹く蒼酉の季節は黄瓶へと変わる節目の80日までの残り二十日間昼夜の温度差が激しくなり夜はかなり冷える。そのため年を通して一番作物が育つのが難しい時期であり、体調を崩しやすい時期でもある。

「いえいえ、宝月殿の領地で採れる柘榴で作った酒は見事なものです。うちにも卸してほしいくらいですよ」

「そう言いつつ酒がすすんでおりませんよ、茉将《マツユキ》殿」

「これは失礼。私、酒は嗜む程度にしか呑めません。しかし美味いのは事実です。私嘘は苦手なので。それに、うちの領地では気候に合わないのか上手く柘榴が育たない。それだけでなく抽出方法が宝月殿のものと違うのか、苦みが残ってしまって。卸して貰えないなら製造方法を知りたいくらいですよ」

 口元を綻ばせ手元に持っていた杯を置き、酌を持って宝月の杯に並々と注ぐ。

 事実、茉将の領地では柘榴の生産は盛んではないし、酒も無花果を檸檬汁と砂糖水で作る無昇華と呼ばれる甘辛く度数が高い酒が主流だった。

 注がれた杯に1つ口を付けると赤い頬を更に赤くして宝月は声を上げる。

「それは茉将殿相手とてお教え出来ませんな!しかし今度からは茉将殿とは同盟、いや盃を交わした今義兄弟も同然!卸さない理由はありますまい!」

「…光栄です」

 そう呟いて手元の酒を口に含んだ。柘榴独特の香りが鼻腔を擽る。酒が喉を焼き、胃に沁みてゆく。

「それにしても、茉将殿が下戸であられたとは思いませなんだ」

 鬼に酒は水のようなものだと思っていました、と声を立てて宝月が笑う。

 茉将は口元に僅かに笑みを浮かべた。

「鬼と呼ばれても私も人の子。得手も不得手もございます。それにここは戦場ではない。鬼も人に還りましょう」

 ほんの少しおどけたような声と言葉に、ほうっ、と感嘆の声を漏らす。と、そこで初めて宝月は、茉将が真っ直ぐにこちらに視線を向けている事に気付いた。

 青味のかかった黒髪を短く刈り上げ、全身を黒に染めた茉将の灰褐色の眼。その眼は、おどけた言葉と弧を描く口元とは対照的に黒く濁っているように見えた。

 獲物を捕えた獣でも、他者を見下す事に秀でた君主でもない、暗く暗く相手の心の底を踏みにじるような、得体の知れない恐怖を放つそれと威圧感。

 これで両の眼あったのなら、この恐怖はどれほどのものであったか。

 一瞬そんな事を考えて宝月はぞっとした。

 酔った身体も静かに熱を引いていくようだった。

 


睡蓮の制裁歌 プロローグ

 砂埃で喉が渇く。火薬と鉄錆の臭いで鼻がおかしい。爆音と怒声と悲鳴に耳鳴りがする。体中の至る所にある傷口から流れる己の血。頭がくらくらする。脳が働くために酸素を求めて浅い呼吸を繰り返す。

「はあっ…」

 足りない。血が、酸素が、力が、何もかも足りない。

 足りないものを一気に補おうと、大きく息を吸うと胸部が痛んだ。胸部を突き刺すような痛みに、生き苦しくて取り入れた酸素をすべて吐いた。耳障りな咳が戦場の空気に溶けて消えていった。

「ごほっ、かはっ」

 何度も何度もそれを繰り返し、漸く呼吸を整えるとクツクツと愉快そうな笑い声が届いた。それが使い物にならない耳に届くや、伏せていた視線を上げて笑い声の主を睨みつけた。

「かわいそうになあ。ああかわいそうになあ」

 馬乗りになったその男は、クツクツと喉を鳴らしながら血に濡れた腕を伸ばすと髪を掴んできた。「がはっ」その拍子に喉につまったような音が漏れる。

 息苦しい。それでも視線を外すことはなかった。

 鋭いその視線は憎悪だけが生む熱く虚しい視線だった。それにも男は怖気づく事無く笑いを堪えることもしない。

「ああその眼だ。その眼がいとおしくてたまらない。いとおしいいとおしいあの方と同じ灰褐色の瞳。ああけれど残念だ…」

「ぐうっ」

「この髪は憎くて憎くて憎くて憎くて堪らない漆黒。ああ本当見ているだけで吐気がするなあ」

 そう言うと男はもう片方の手で細い首に手を掛けた。親指に力を込めると蛙の潰れたような声が漏れた。

 殺される、と本能が吼えるのに対して驚くぐらいに冷静な理性がいた。唇を食い破るほどに歯を食いしばり、目の前で狂気を魅せる男を睨みつけた。

「っさわぁんな、屑」

「口が悪い」

 男は短く吐き捨てると両手を離した。

 それに従い身体は地面に叩きつけられた。そしてその身体を醒めた両の眼が見つめる。

「ああ醒めた」

 空気が震え耳に届いた時には男の顔が眼前に迫っていた。

 男の手が顎を伝い、頬を撫でその上へと触れたところで固唾を呑んだ。男は口元を綺麗な三日月型に歪めている。

「私が憎いのなら私を焼き殺せばいい。その愛よりも重い深く悲しい憎しみの業火で。この身も骨もお前が臨むままに」

 抵抗しようとしたが、身体が悲鳴をあげるだけだった。

男は更に言葉を重ねる。

「今は……そう。あの方のかわいいかわいいかわいそうな子ども。生かしといてあげよう。けれど…」

 優しく愛おしむように撫でる。その眼はすでにこちらを見てはいなかった。それはまるで常世の花を探すようなとち狂った獣の眼だった。

 残った片目で男を鋭く睨みあげ「殺してやる」と掠れた声で唾を吐き捨てた。男にその言葉が聞こえたのかは分からない。

 男の心はすでに現にはなかった。

「その美しい灰褐色は1つ、返してもらおう」

 言葉の意味を理解するより先に何かが目の前を掠めた。その瞬間神経をずたずたにされる衝撃が脳を駆け巡った。

「っぐあああぁああああああああぁあぁああぁぁぁ」

 体中の熱が瞼に集まる感覚に声を出すしか痛みを追い出すすべがない。否、声を上げなくては痛みに意識が持って行かれそうだったのだ。神経を裂いた切っ先がぐるっと動く。痛い、苦しい、死ぬ。

 生きたまま与えられるその痛みはまさに地獄。

 そして、だんだんと霞む視界の中で視たのは、愛しい人の一部を取り戻すことに歓喜した狂気の姿だった。

「……はっ、」

 息を呑むような自分の声で目が覚めた。

上半身を揺れ起こし辺りを見渡してもあの男はいない。そして徐々に微かに震えていた身体が収まっていくにつれ、今の出来事が夢だと認識した。

 1つ息を吐くと額に手を当てた。拭うとねっとりと汗が纏わりついた。だんだんと気持ちが落ち着いてくると体中気持ちが悪く軽く寒気がしているようだった。人を殺した夜でもこんな風にはならない。そこで不意に男の顔を思い出して吐気がした。

 そして拳を持ち上げ眼玉の無くなった右眼にあてる。すでに痛みはなくなったはずなのに、ずきずきと痛みを伴って冷めやらない怒りと共にうずいた。取りさらわれない違和感が不快である。

 胸に込み上げる不快感にぎりっと奥歯を噛み締めた。

「殺してやる」

 唇から滴る血には眼もくれず、ただ眼前に佇む憎悪に唾を吐き捨てた。

睡蓮の制裁歌 プロローグ

 あの方は私にとっての太陽だったのです。

 しかし、このようなありきたりな揶揄を用いてもあの方のすべてを伝える事はできません。そして私のあの方への想いは、言葉にするほど陳腐なものになってしまうでしょう。好きでは霞み、愛しているでは物足りないのです。

あの方を想えば想うほどに胸は締め付けられ、いっそ殺して欲しいとさえ思うほどに苦しい。あの方が他者にその眩いまでの笑みを向けるだけで、濁流のような感情に押し潰され圧死しそうです。

それほどに私はあの方を自身の人生の光とし、この小さない体で今日も拙い愛の言葉を吐き出すのです。そしてその表現しきれない愛のすべてをあの方の細くしなやかな身体に与えるのです。行為の最中はまるで最古から1つであったように溶け合うのです。

そして愛を確かめ合った後にあの方の薔薇のような唇に口付けを落とし、また1つ愛の言葉を囁くのです。するとあの方は微笑んで私の拙い愛に言葉を重ねてくださるのです。

あの瞬間ほど私はあの方といる幸せを感じた事はありません。

けれどそれも長くは続きませんでした。あの方は私の手の届かない場所へと行ってしまわれました。あの方はお家の為、隣国の国主の元へと嫁いで行ってしまったのです。

私は悲しみにくれました。死んでしまいたいほどの絶望に襲われ食事もろくに喉を通らなかったのです。しかし絶望の中でも、あの方の慈愛に満ちた私を想うて下さるという言葉に私は救われました。

あの方は私を嫁ぎ先に連れて行ってくださりました。そして当主の眼を盗んで逢瀬を繰り返し、愛を紡いでおりました。あの時は当主や家の者に逆らっている背徳感よりも、当主の元へ嫁いでも私を愛してくださるあの方への独占欲と優越感を多く感じておりました。

 しかし最悪の時は目と鼻の先に現れてしまいました。今思い出すだけでもあいつを八つ裂きにしてやりたい衝動に駆られます。

 あの方はある日私の手ではなくあいつの手をとったのです。あの方の心が移り変わってしまったのでは決してありません。あいつが卑怯な手を使って私からあの方を奪い取ったのです。

 ああ口惜しい。あの方の肩を抱き私に向ける勝ち誇った笑みを思い出しただけでも…ああ口惜しい。

 その日から私の人生は陰りました。そしてあいつへの憎しみで膨れ上がる私の心の中にはいつしか魔物が棲み付きはじめました。黒く禍々しい無数の尾を持って私の腎臓を、肝臓を、肺を、腸を、脳みそを、そして心臓を食いつくし血肉にまで喰らい尽くす恐ろしい魔物です。

 そしてその魔物が棲み付きはじめてから何度もあいつは死にました。見るも絶えないほど無惨な姿で何度も何度もあいつは死にました。それを目にして私の中に芽生える感情は素晴らしいまでの昂揚感でした。高ぶる鼓動に連なり私の征服欲は徐々に満腹になって参りました。

 陰り淀んでいた私の心に少しばかりの光が差し込んだのです。満腹になるに従い光は増し、いつしか私の太陽に近い存在になりました。いいえ、私は太陽を、私のただ1つの太陽であるあの方を取り戻す時だと感じたのです。

 そう確信した時のあの清々しさ程私の中の魔物を奮い立たせたことなどありません。

 そして私は希望の刃を手にしたのです。私の愛おしい太陽を再びこの手に取り戻すために。あの輝かしい温かな光をまたこの身に浴びる為に。

 この欲を満たすための聖戦へ私は参ったのです。



←prev next