いつも提案は唐突なのだが、
「十代、したいんだけど」
まぁ、そんなもんじゃないかな、と、ぼんやり思うことしかない訳であって。
プラトニック・ラヴ
いーけど、と十代は気だるげに呟く。
乗り気でないように見えるのも比較的通常運転である。
俺のとなりでごろごろデッキをいじっていた十代は、でもさ、と、俺に見向きもせずに
「明日、俺1限からだわ」
ヒーローと真っ直ぐに向き合っている。
ひくっ、と自分の頬が痙攣するのを感じた。
内心、しまった、と思った。
自分が言い出した以上、ほぼ100%やることになる。しかも十代は明日の1限。
これはこいつにとって好機でしかない。
それは、実質的な『俺今回上だから』宣言に他ならないのであって、
「やるんだよな、ヨハン?」
いつもは可愛い顔して、こういうときはとんだ悪魔だ。心底そう思う。
身体中を虫が這いずり回ってる。
「……はっ……」
はっきりいえばあまり気持ちいいとは言えない。
ぞわぞわと体の奥から悪寒がわいてくる。
十代は俺が指が弱い、と知っている。しかも左の薬指が、特に。
さも楽しげに俺の左手(特に薬指)に舌を這わせた。そんな十代と目が合う。嫌な笑いだ。ちくしょう覚えてろ。(ちなみに十代は右耳の耳骨が弱い)
まるで見透かしたように、十代が歯を立てた。
「いっ!」
更に悪寒が強くなる。ぞわりとした感覚は瞬く間に全身に波及して、どんどん思考が蝕まれていく。
荒く息をする俺を横目で見つつ、十代は自分の指を丹念に舐め始めた。ゆっくり、ねっとりと。俗に言う「いやらしく」。
俺はその光景が好きだ。
十代の細い、きれいな指が、うっすらと透明な膜を纏っていく。
その、ひどく艶かしい、光景が。
いくぞー、と暢気な声が聞こえる。まるで授業に行くときのような調子で。
ぐに、と侵入した指。
その長くて細い、さっき妖艶に光っていた十代の指が、俺の感覚を支配しようとしている。
「ぁ…う」
それだけでぞくぞくと五感が研ぎ澄まされる。いやに十代を意識してしまう。
大体何年もこういったことを続けているのだから、十代も俺を煽ろうと、やたら一ヶ所を引っ掻いてきた。
俺たちはあまり声は出さない方だが、流石にこの辺りで我慢できなくなってくる。
「…ぐ、ぁ、」
もういいから、と俺は薄く口を開ける。
一瞬ライオンみたいに目をほそめて、十代は唇を重ねてくる。噛みつくような、息も儘ならないそれ。
唇が離れて、ようやっと息ができる、と思った途端、
「あ゛ぃっ…ぁあ゛!」
ぐずり、と何かが侵入してきた。
この状況下で何か、何て
言わなくても分かる。
俺はその質量に呻いた。
まぁ大体この辺で意識が飛ぶ。
俺はよく保ってる方だ、と思う。
元々あまり手を繋がなかった。
キスをすることも少なかったし、体を重ねることへの別段抵抗も、まして上か下かの拘りもなかった。
好き、がlikeなのかloveなのかよく解らなかったし
(多分loveなのだろうけど)、別にそんなもんだろう、と曖昧に思っていた。
ただ例えば、俺は十代が耳が弱いことを知っていて、十代は俺が左薬指が弱いことを知っていて、
(二人だけの秘密、ということがあればいい)
つまりこれは
exciting ×
interesting ×
プラトニック・ラヴ!
(性愛でも友愛でもない僕らの精神的愛情観)