2014/3/24 Mon 01:38
アナタが欲しい5

話題:連載創作小説
遅くなりました。
最終回です。
以下本文





さっきまで雨が降っていた。
しとしと、しとしと、陰鬱になるような雨だった。
この墓場というシチュエーションにはふさわしいはずなのに、俺の心はどこかしっくりこない。
閉じるタイミングを失った黒い傘の下を黒を纏った人たちがうごめいている。
その真ん中には黒い棺。
最後の別れを惜しむために開けられた窓からはもう生者とはかけ離れた真っ白な顔が見えていた。

「ホントに死んでるんだよね」
「うん…」

隣にから聞こえた質問に俺は肯定する。
少し視線を向けると、隣の人物の襟や袖の隙間から白い包帯が見え隠れしていた。
各言う俺も右手を吊っている状態でいたる所が包帯でぐるぐるにされている。
ここにいるほとんどの人がそうなのだけど、まだ先日の戦いの傷が癒えていない。
世界を大きく変えてしまうかもしれないほどの戦いだった。
その戦いの犠牲となったのは幾人かの兵士と、今ここで永遠の眠りについている
ーーチャールズ・ジョンソン

「ちゃんと人間だったんだ」

俺の隣にいるパメラが少し皮肉気に言った。
それほどに彼の死は予想されてなかった事なのだ。
死因は暗殺。
背中から誰かに貫かれていて、争った形跡は無かったと聞いている。

「そうだね」

人の隙間から見える黒い棺桶をぼんやりと見つめる。
すると風が一瞬止んだ気がして次の瞬間には人が飛ばされるのではないかというぐらいの突風が吹いた。
俺は何も考えていなかったにもかかわずパメラを守るように抱きしめていた。
刹那の差で背中に激痛が走る。

「い゛っ」

俺の顔の横を黒い板が飛んでいったのが見えた。

「アイル!?」
「大丈夫、背中に何か当たっただけ」

陥没したのではないかと思うほどまだ痛む。
よくよく考えればこの高さはちょうどパメラの頭の高さだ。
もし、あの時俺が庇う動作をしなければと考えてゾッとする。
そして何故かその庇わなかった場合を今目の前で見てるのではないかというほど鮮明に想像できた。

「アイル?」

俺の様子を怪しんでパメラが俺の顔を覗き込む。

「平気。それよりパムは?何ともない?」

取り繕うようにパメラに笑顔を見せる。
彼は「おかげさまで」と少しふくれっ面をして見せた。
俺に庇われたのが気に入らないのだろう。

「それにしてもさっきの風すごすぎでしょ、棺が壊れたみたいだよ」

風が止んで、黒い人だかりが棺に群がっていた。
俺とパメラは少し遠巻きに見ていたが、じきに新しい棺が運ばれてきて、それに移し替えられ葬儀は無事終了した。

「ねぇパム、俺なんだかとっても大切なこと忘れてる気がするんだ」

心のわだかまりを少し前を歩くパメラに打ち明けた。
いつからだろう?
いつから俺はこんなもやもやした気持ちを持ったんだろう?
何かよくわからない不安感。
パメラを見るとそれが強くなる。

「忘れるような事なら思い出さなくてもいいことなんでしょ」

必要になればまた思い出すでしょ、と彼は笑った。
笑ったのだが、その顔を確認すると同時に彼は俺の視界から消えた。
馬の嘶きを聞きながら俺は何を不安に思っていたのか理解してしまった。

「思い…出した…」




おわり
***
おはこんばんにちわ。がうです。
やっと終わりました。
え、終わらせたの間違いじゃないか?
まぁ終わったんだからよしとしましょう。
終わり方は決めてましたし。
解説を追記に書きましたのでよろしければどうぞ。



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