2014/3/6 Thu 23:04
未来は

話題:創作小説


誕生日なんて、今まで守ろうとしてきたものが崩壊してからずっと忘れてしまっていた。
人に言われて初めて認知する、それくらいの存在でしかなくなっていたのだ。

この日は静かだった。

殺しの依頼もないし、やかましく立派に文句を言うお子ちゃまも珍しく仕事以外でどこかに出かけている。
木戸は独り、カーテンを閉じた暗い部屋でなにも考えずに寝床に転がっていて時折入る祝電のメールを確認する。


息子の報告。

商品を催促する内容。

皮肉だらけの挨拶。

滞っている医療費を払えという脅迫文。

改めてみると全員面倒で癖のある変人たちが自分の数少ない友人であることに気づかされる。
決して嬉しくはないが、それでも嫌ではなかった。

事務所の方から大きな音を立てて、美玖が帰ってきた。
帰るや否や大声で人をおっさん呼ばわりするものだから、木戸は仕方なく寝床から出た。

「なんだよ」

「べ、別に。死んでないか確認してただけだよ!!」

そう言いながら自分の後ろに何かを隠した。
木戸の脳裏に浮かぶ映像。
思わず失笑してしまった。

「なに笑ってんだよ、気持ち悪っ」

「お前が今隠したやつ当ててやろーか」

木戸がにやりとしながら「シャンパン」と言うと美玖がうろたえる。

「図星だな」

「別におっさんの誕生日だから買ったんじゃないんだからな、ただの気まぐれ!!」

そう言って美玖はボトルの入った紙袋を木戸に押し付け背中を向けた。

「気まぐれでシャンパンなんか買うガキがいるかよ」

誰かに頼んだのか、それとも自分で買ったのか。
どちらにしても美玖が本音をごまかしながらシャンパン買う姿を想像すると木戸は微笑ましくなった。

「ありがとう」

「どう……いたしまして」

そういえば、と木戸はふと思う。

「はじめてだ」

「?」

「人の死以外で勘が当たったのが」

「……ふーん」

外は今年の初雪が降り始めていた。
通りを歩く人々が皆空を仰いだ。


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