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足音がして振り替えると、長身の影が近づいてきていた。
夢灯り全員攻略しました。
エピソードが一部ないので、これから頑張ります…。
ということで、さっそくネタバレの織田兄弟ネタを。
そういえば感想も書いておかねば。自分の記憶用に。
うたた寝
夕刻に差し掛かろうとするのにまだ日差しが高い。
信行に与えた屋敷を訪れ、まるで自室のように入り込むのは、この城の城主だけだ。皆頭を下げて信長を迎え入れる。
「信長様、ただいま信行様は…」
一番信行に近い次女が申し訳なさそうに言うが、
「よい」
と短く返事をするだけで、足を止めることはない。
今までは機嫌を窺うようにして訪ねていた弟の部屋だが、今日からは気にすることもない。ふた月前まではそのようにしていたのが、すごく昔のことのように思える。
しかし、室に入る前に目的の人物を見つけて、ぴたりと足を止めた。短くはない濡れ縁の奥に、横になっている。敷物もせずまるで倒れているかのようだが、眠っているらしい。
「――…」
「先ほどまでは文机に向かっていらっしゃったのですが」
言葉を失った城主に、不興を招いたと思った次女は、信行のために言い訳をしようとした。
「よい。昨晩は色々あったからな、疲れているのだろう」
珍しく声を小さくして次女に笑いかける。彼女はほっと表情をゆるめた。
「お昼寝がお好きだと、姫様にお話しされたそうですよ」
信長は相槌を打ちながら、知らなかったと思う。こんなに無防備な姿は見たことがない。
自分の前では最近は強張った表情しか見せていなかったし、その前もかしこまって取り繕ったような笑みを貼り付けていたことしか思い出せない。
実の弟とは言え、この年にもなって知らないこともあるものだ。
「今朝は憑き物が落ちたようなお顔で」
天守で何かあったことは知っているだろうが、詳しくは知らないだろう。
しかし、ひと月ずっと就いていた侍女には、信行が良い方向に変わる何かがあったとわかってくれている。
信行は彼女をはじめとして、弟に尽くしてくれた皆に感謝の念を抱いた。
侍女を下がらせて、なるべく足音をたてないように信行の傍に座る。まだ気持ちよさそうに眠っている。
半身を下にして、丸くなって眠っている。そういえば子供の頃にこんな姿を見たことがあるかもしれない。
庭木は緑を濃くし、空には夏雲が浮かんでいる。強くなってきた日差しが当たっているのに、暑くはないのか。
「早く起きろ」
話したいことがたくさんある。
言葉とは違って起こしたいわけではないので、口の中で小さく呟いて優しく笑う。
大人になっているはずなのにあどけなく見える寝顔。
何も憂いがなくなり何もかもから解放され、緊張せずに眠っている。やり方は強引だったがこうして弟に安らぎが戻ってよかったと心から思う。
弟が起きるまでずっと、その穏やかな寝息を聞いていたいくらいに。
拍手ありがとうございます。
ファイブレ3期がはじまってウキウキのアリカです。こんばんは。
一旦ここに置かせてください。
なぜか二人で出掛けることになってしまった。
常に皆といるのは息がつまりそうだから、その場を離れたかった。なんでもない素振りでコンビニまで出かけてくるよと席を立ったら、何を思ったのかフリーセルが供をしたいと言いだした。
気紛れだ。
俺は今はフリーセルと行動する気分ではなかった。息抜きにならないから。息がつまりそうな主原因はフリーセルだ。
とはいえ、フリーセルが自分に同伴することなんてめずらしいことだから、嬉しくないわけではないのだけれど。
しかし、フリーセルの前で彼の気に障らないように偽り続けている俺としては、今は一人になりたかった。
本人は俺の気持ちなんて推し量るタイプじゃないから、軽い足取りで俺の一歩前を歩いていく。
機嫌がいいんだ。これなら、彼の気分を損ねることは少ないかもしれない、今のところは。
まあ、そうじゃなければ俺と散歩なんて来ないか。
平日の午後の街は人気も多くなく、広い歩道はフリーセルと俺しかいないみたいだった。
フリーセルが機嫌がいい理由はわかる。数日前に大門カイトに再会したからだ。
昔と何も変わっていなかった。フリーセルは嬉しそうだったけど、俺は気分が悪かった。
カイトは何も変わっていなかった。あの頃、フリーセルが憧れてやまなかった頃と、何ひとつ。
俺は、彼が嫌いだ。フリーセルの心を独占して離さないから。
ついにフリーセルは何かしゃべりだした。他愛もないことだけど、声が弾んでいる。
俺は自分が沈んでいることを悟られないように、なるべく明るい調子で相槌を打つ。
フリーセルはネガティブで根暗な男を、きっと嫌がるだろうから。
歩道のそばには整えられた花壇がある。
花壇には煉瓦のようなもので囲いが作られていて、名前は知らないが色鮮やかな花が咲いている。
その囲いに、フリーセルは乗ってその上を歩いていく。
高いところが好きだなあ。
高さは膝の高さくらいだが、横幅がフリーセルの靴と同じ幅くらいしかない。そんな細い花壇の端を器用に進んでいく。
狭いところを歩いているという感じを受けない優雅な歩き方だ。
この背中は最近見たような気がする。
そうだ、彼と再会した時だ。
風を受けながら、大門カイトを見下ろすフリーセルを思い出す。
本当に高いところが好きなんだなあ。
それに怖くないんだ。
とたんに周囲が、どこか高いところの上にいるように感じられた。
俺がいるところはとりあえず安全なところ。でも数歩前を行くフリーセルは、まるで空中に浮いた平均台の上を歩いていた。足元を見ることもなく、淀みなくまっすぐに。
いつの間にか、二人の距離が少し離れている。
フリーセルの視線の先はいないはずの彼に向けられている。
ああ、俺はずっと、この後ろ姿を見ていなきゃいけないんだ。
昔から、今も、これからもずっと。
大門カイトだけを見つめる、フリーセルの背中を。
フリーセルが一歩踏み外したら、落ちてしまったら、こんな思いに悩まされることはなくなるのに。
俺はそっとフリーセルの背中に手を伸ばす。
今なら、楽になれる。
「……!」
フリーセルの左腕を掴んだ僕を、彼は驚いて振り向いた。
周りは広い歩道。日本の街だ。
「…落ちるよ」
実際にフリーセルが落ちそうだったかはわからない。けれどフリーセルは怪しむ顔ひとつしなかった。
俺が手を離すと、両足をそろえて俺の隣に飛び降りてくる。下から俺の顔を覗き込んで笑った。
「ありがとう」