天の邪鬼と悪魔
ショートストーリー

「新しい命を産み出す行為が、尊くて、神秘的だと思う?」

勘違いも甚だしいわ。そうユリアは吐き捨てた。

「じゃあ、ユリアさんはどう思っているんですか?」
「そりゃあ、穢らわしくて、醜悪的に、決まってるじゃない」

人間から、人間が生まれるなんて、おぞましいわよ。ユリアは嘲笑った。

「それは、ユリアさんがそう思うだけでしょう?」

マキは、じっと、ユリアを見詰めている。

「まあ、そうね。でも、考えても、みなさいよ。行為に快感が付きまとうから、行為に及ぶわけで、快感がなければ、人間は、交わらないと思わない?世の中には、こんなに人間が溢れているのに、まだ、人間を産み出すの?全く馬鹿馬鹿しいわ」

そこでマキは、にこりと柔和に笑った。けれど、それは、どこか悪魔的で、ユリアは一瞬、息を飲んだ。その一瞬の間に、マキは言う。

「つまり、ユリアさんは、セックスの快感を、味わったことがないんですね」

わかりました。僕が教えて差し上げますよ。マキは柔和ながら、悪魔的な笑顔のまま、ソファにユリアを押し倒した。そして、噛み付くような、絡めとるような、キス。

ようやく解放されたユリアは、肩で息をしながら、罵声を浴びせた。

「何のつもりよ!!!」
「僕は、ユリアさんのこと、好きなんです。それじゃ、ダメですか?」

マキは項垂れて言った。

「ダメに決まってるじゃない!あたしたち、付き合ってもないのよ?!」

ただの先輩後輩だわ!その言葉に、マキは、間髪入れずに言う。

「じゃあ、いまから、ユリアさんは、僕の彼女です」
「何勝手なこと言ってるのよ!」
「いや、ですか?」

そこで、ユリアは、黙りこくった。

「その沈黙は、イエスでいいですね?僕は今から、キスをします。嫌だったら、ノーと言ってください」

そして、二人は、キスをした。



end
話題:SS


13/01/10  
読了  


-エムブロ-