難題
ショートストーリー

「いくら打っても、響かない鐘を、打ち続けられるのって、バカだけだと思わない?」

あたしは、至極、普段通りに話し始めた。

「んん?どーゆーこと?」

目の前で、不思議そうな顔をするその子に、あたしは、だからね、と続ける。

「何を言っても、変わらない相手に、言い続けられるか? ってことよ」
「ああ、なるほど。例えば、もう少しマメに連絡頂戴よ、ってことでしょ?」

それはきっと、その子の彼氏の悪い癖なんだろうなあ、と思いながら、あたしは頷いた。

「言っても言っても、変わらないのよね、相手は。けど、その事で不機嫌になると、言えばいいだろ、って、言うのよ」
「そうそう。素直に言えばいいじゃん、ってね。変わる気も、変える気もないのに、でしょ?」

あたしは、大きく頷く。

「だったら、あたし等はどーすゃ良いのよ、って、なるでしょ?」
「うんうん! ああ、だからかー。打っても、打っても、響かないのに、打ち続けられる訳、ねぇだろ、って事だ!」
「そう!!! 相手は、あたし等に、バカになれ、とでも、言ってるのかな、って思わない?」

そこで、その子は、少し黙った。

「諦めろ、って、ことなのかなあ、とも、思わない?」

あたしも、少し黙る。なるほど。確かに。

「諦めて、目をつぶれば良いってことなのかもね。でもさ、それって、いつかは、溢れだしちゃいそうじゃない?」

今度の沈黙は、長かった。

「目をつぶれないなら、別れた方が、楽なんじゃない、かなあ…」
「それは、いや!!!」

あたしは、無駄に大きな声をあげてしまった。

「あ、ごめん。でも、それは、嫌なの、よね」
「本当に、好きなんだね」
「うん」

あたしは、小さく俯いた。

「我慢、すればいいのかな?」
「我慢は、良くないよ」
「わかってる」

その子は、ぽんぽん、とあたしの頭を撫でた。言いながら、笑う。

「ほんっとうに、好きなんだねぇ」

あたしは、言葉に詰まって、頷くことしか出来なかった。

「だから、たぶん、頑張るしか、ないと思う」

あたしが言うと、その子は、少し、唸りながら、言ったのだった。その言葉は、静かに響いて、消えていった。

「じゃあ、その頑張りは、何処にいくんだろうね。恋人同士のことは、二人のことなのに、どうして、どっちかだけが、頑張らなきゃ、ダメなのかなあ……。難しいね」



end
話題:SS


12/12/22  
読了  


-エムブロ-