「愛してるよ。食べちゃいたいくらいにね」
「魅恩‐みおん‐が言うと洒落にならないから、止めろ」
俺は、笑いながら言った。魅恩は、食人鬼だ。食べちゃいたいくらい、とは、本当に、洒落にならない。
「だって、ほんとに、好きなんだもん、仕方無いじゃん」
「って言ってもさ、喰っちまったら、ナニも、残らないんだぜ?」
俺は、常日頃から、気になっていたことを訊いてみた。
魅恩はこと有る毎に『食べちゃいたいくらいに愛してる』と言うのだ。愛する者を、喰ってしまいたい、とは、どういう心理なのだろう。まあ、鬼に、心があれば、の話なのだが。
「物体としては、ナニも残らなくても、その人が生きていたことは、残るでしょ?」
「確かに」
「それに」
そこで、魅恩は、うっとりとした表情を見せる。俺は、一瞬だけ、その表情にみとれてから、先を促した。
「それに、なんだ?」
「食べちゃえば、一つに、融け合えるのよ」
それって素敵でしょ。魅恩は、相変わらず、うっとりとした表情を崩さない。
「一つに成りたいなら、セックスでもすりゃあ良いじゃねぇか」
俺は、低俗なことを言った。魅恩は、俺をみて、小バカにするように笑った。
「セックスじゃあ、ダメなのよ。足りないの。もっと、欲しくなる。身体中、全て、心も一緒に、融け合いたいのよ、あたしは。まあ、セックスでも、悪くは、無いんだけどね」
魅恩は、言いながら、俺にすりよってきた。
「ねぇ、シようか?」
「食わねぇだろうな?」
俺は、茶化すように、魅恩の頬に手を添えながら言う。
「食べないわよ。だって、燐‐りん‐は、死にたくないんでしょ」
魅恩は、いたって真面目に、返答を寄越した。
「ああ、まだな」
俺は言いながら、魅恩の口を塞ぐ。乱暴に口内を犯した。
「だから、魅恩が俺を喰うまでの間は、魅恩が、俺に喰われとけ」
魅恩を押し倒しながら言うと、魅恩は、クスリと笑った。
何時か死ぬなら、こいつに喰われて仕舞いたいと思った。 食人鬼の気持ちも、わからないでもない、と思った自分は、一体何時の間に、マトモな人間から、離れてしまったんだろうか、と思った。だが、それも、悪くないと思ったもんだから、つい、笑ってしまった。
「なに、笑っ、て、んの…よ」
熱に浮かされた、恋人の顔が、可愛らしくも、色っぽくて、俺は、また笑った。
「魅恩が、可愛いからな」
end
話題:SS
12/08/28