彼女は、彼以外は、愛さないと誓ったのです。
《真の愛》
彼女の愛した人は、ある夜、病の末、亡くなりました。彼は、死に逝く間際、彼の弟に言ったのです。彼女を頼む、と。
彼と彼の弟は、よく似ておりました。それもそのはず。彼等は双生児でありました。
彼女は、彼が亡くなったことを、認められませんでした。其故、彼が亡くなった夜から、眠ってしまったのです。
彼の弟は、彼の振りをして、彼女を揺り起こしました。
「百合、起きてくれ。俺だ。戻ったぞ」
彼女は、ゆるり、と目を開けます。そして、言ったのでした。
「弟君ね。やっぱり、彼は死んでしまったのね。私も死ぬわ」
「死ぬ、と言うのなら、どうか、俺に殺させてくれないか」
彼の弟というのは、彼女を愛しておりましたが、叶わなかったのでございます。だからせめて、彼女の死、くらいは、欲しかったのでしょう。
真の愛とは、此程までに、人々を狂わせるのですね。
恐ろしゅうございます。
end
話題:SS
12/06/21