嘘、売ります。
ショートストーリー

「暇?」

駅前でスマホを弄っていた私に、そう声が降ってくる。ゆるり、と顔を上げるとネクタイまできちんと締めたスーツの男が私の前に立っていた。

「ひまだけど?」

対象的に私は学校指定のベストの代わりに、グレーのカーディガンを羽織っていた。校則違反だ。

「二万でどう」

まるで恋人にするかのように、彼は屈み、私の耳元で囁く。傍から見れば、本当の恋人に見えることだろう。

「あんた顔も悪く無いから、それで良いよ」

私は彼の首にするりと腕を回し、頬にキスした。

「とりあえずさ、ご飯行こうよ」
「なに食う?」

どちらからともなく指を絡ませ、身体を寄せ合って歩く。駅前なら、食べたいものなど選びたい放題だった。だからこそ、安価なものを選ぶ。その時の男の反応で、どれくらいお金をむしり取れるか品定めするんだ。

「んー、ラーメン」
「案外、安上がりなんだ。別のものでも良いよ?」

こいつは当たりだ、なんて思った。幾らむしり取れるだろうか。算段を練りつつ、結局ラーメン屋に入った。満腹になったところで、コンビニに寄り、必要なものと、ついでにアイスを買った。そのまま、ラブホへ向かう。

もちろんその間も、手指は絡まったまま。男なんてチョロい。それが私の男に対する評価だ。

一番良い部屋に入り付いたとたん、彼が私を壁に押し付ける。そのままキスされた。息を吸い込んだ口内に、ぬるりとした異物が侵入してくる。噛みちぎってしまいたい衝動を抑えて、舌で対応した。

「シャワー浴びて」
「冷たいなあ」
「だから?」
「はいはい」

彼の機嫌を損ねない程度に突っぱねる。汗臭いモノをしゃぶらせられたりしたら、たまったものじゃない。別にセックスは嫌いじゃないが、不快な思いは出来るだけしたくなかった。

「一緒にはいるから、ね?」

一緒に入るのだって、ちゃんと洗ってるかとか、サイズはどんなものかとか、ヤのつく人っぽく無いかとか、そういうのを見るためだ。

洗ってあげるといって、イソジンをぶっかけるのだって、性病を持っていないかを調べる為なのだ。いらない病気はしたくない。

別に、淋しいからだとか、セックスが好きだからとかで、こんなことしてるわけじゃない。私が好きなのはお金だけだ。お金さえあれば、世の中、生きていける。

そんなことを考えて居ると、彼のモノが主張し始めた。案外立派なものをお持ちですこと、なんて思う。軽く扱いてやると、気持ち良さそうにしていた。

「手コキ五千、フェラ五千、本番二万」
「じゃあ、手コキとフェラ追加」

一旦、泡を洗い流して、その場で扱きながら咥える。のぼせてしまわないうちに済ませよう。一年もこういうことをしてれば、慣れるもんだな、なんて思った。口内に吐き出された白い悪魔を舌の上でころがす。

「飲んで?」

私は挑戦的な目で指を三本立てた。彼は頷く。それを見てから、私は悪魔を飲み干した。不味い。顔をしかめると、彼は私の頭を撫でた。ありがとう、ってか?馬鹿馬鹿しい。シャワーで軽く身体を流し、浴室の外へ出る。アイスは溶けてしまっていた。

「ぁ。私のハーゲンダッツが……」
「帰りに新しいの買ってあげるよ」
「本当?!」
「良いよ。君のこと気に入ったし」
「わーい!」

時折見せる、女子高生っぽいとこ、そそるでしょ?なんて思いながらあざとい私を演じる。やっぱり男はチョロい。腰に巻いたタオルがゆるりと蠢いた。

ベッドに腰掛け、買ってきた缶チューハイを飲む。缶チューハイで酔うような奴の気がしれない。

「ちょっと、酔っちゃったな」

嘘を吐きながら彼に寄りかかる。もちろん彼は騙される。

それで良い。私は甘い嘘と若い体を売って、お金を稼ぐだけだ。彼やチョロい男達は、私の財布でしかないのだから。



end...?

話題:SS


14/07/14  
読了  


-エムブロ-