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嗚呼、女子高生。



 すらっと伸びた脚。それを隠すように包む黒いニーハイソックス。股下10センチのミニスカートはニーハイソックスとの間にきらめく太ももを輝かせる。
 むちりとした身体はエロシティズムとキュートの境目をいったりきたりしている。希望の詰まった豊かな胸に細い腰に小さなお尻。華奢な身体に詰まる魅力。女子高生はセクシュアル的だ。

「はぁ」

「どしたの、溜め息ついて」

 快活そうな声で、にひひと笑いながらあたしの頭を撫でるのは、愛しの友人、エリカである。長い黒髪ストレート。あぁんかわいい。かわいいかわいいかわいい!
 小ぶりの胸(推定Cカップ)も、細い腰も、それでいて少しむちむちしたお尻とそこから伸びる太もも、ふくらはぎがすらっとしていて美しい。制服に包まれた彼女はまさしく女神、あたしのときめき。

「んーん、なんでもないっ」

「ほんとに?」

「ほんとだよーぅ」

「無理しちゃダメよ」

「そうそう、最近テスト詰めだからって寝不足とか、ダメなんだよー?」


 頭をわしゃわしゃ撫でるエリカの横に、クラスの委員長であるハルナちゃんがやってくる。
 エリカより長い黒髪を綺麗にひとつにたばねて、さらさらの髪の毛を靡かせて。きりっとした目もとにはインテリ風の眼鏡。泣きぼくろが可愛らしい。ぷるぷるの赤い唇に白雪姫みたいな色白の肌に、美しく成長してらっしゃる豊かなお胸。長い手足。息を呑むほど綺麗な子。

 よだれがじゅるじゅる出そうな毎日を過ごすあたしは、えへへと笑って「無理はしないよー」っとお茶を濁す。
 ほんとは女子高生の美しさに、思わず溜め息をついてしまっただけ。

 はぁ、女子高生はかくも美しい。
 無防備な着替えの瞬間も、なだらかな腰のラインも、同性だからといって警戒せずにその太ももの奥まで見えてしまいそうなミニスカートも。全てが綺麗で麗しくて、あたしは、毎日心臓が破裂しそうだ。

 嗚呼、女子高生!
 全てが美しく、愛しい君たちよ。
 今日もあたしは、日々を生き抜く。


(百合少女の戯れ言)

めいっぱいの夏休み


 燦々と太陽が照りつける。まるでこのまま溶けて、暑さでぐちゃぐちゃになったアイスのようになりそうな暑さだった。気温はこの夏一番の猛暑だという。


「倒れるよ……これ絶対倒れるよ……」

「あっちい」

「誰だよ外出しようとか言ったの!」

「お前だよ」

「私だったー!」

 麦わら帽子を被った、白いワンピース姿の少女が、どこにそんな体力がありあまっているのかというほど無邪気に天真爛漫に、言葉を続ける。元気だ。

「でも本当、暑いな。熱中症になりそう」

「気をつけなきゃねー」

 眩しすぎる太陽に目を伏せ、首筋に垂れる汗に辟易する。

 それでも僕たちが出かけているのは、これが、夏休み最後の思い出になりそうだから。

「手術いつだっけ」

「いつだっけ?」

「誤魔化すなよ」

 誰よりわかってるくせに。天真爛漫な少女は困ったように笑ってはぐらかす。いつだって、自分が何よりも弱いことをひた隠しにする。

「一週間後、ぐらいかな?」

 色白い肌。華奢な身体。それでも、笑顔はめいっぱい。まるで向日葵のような少女だというのに、酷く病弱だ。こうやって夏空の下に居れるほど体調が良いのが不思議なぐらい、今日の少女は元気だった。

「そんなこと忘れて、さ!今日はめいっぱい!遊びほーけるんだー!」

「はいはい」

「いっぱい奢らせちゃるっ」

「はぁっ!?お前は僕の財布をどうする気だ!」

「一足早く冬を迎えさせてあげるね、暑いから!」

「こいつ鬼だーッ!」

 来年も、再来年も、こうして笑い合っている確証なんて、どこにもない。病弱だって病弱じゃなくたって、いつ、何があるかわからないんだ。人間だから。生きているから。

 だけれど、だからこそ、生きているから、こうやって、「めいっぱい」をする。
 めいっぱい笑って、めいっぱい遊んで、めいっぱい、生きていくんだ。

 夏休み最後の思い出を、めいっぱい、描こう。

緩慢な自殺


 煙がくゆる。白と灰の混ざったような色をして、煙は部屋を舞う。ゆらゆら、もくもく。
 輪っかになった煙に、面白がって手を伸ばして、払って、煙を消した。

「おじさんはどうして煙草を吸うの?」

「どうしてだろうな」

 三十を間近に控えた、綺麗に髭を整えた、叔父が答える。酷く曖昧で適当な言葉だ。叔父はまた輪っかにした煙を吐く。まるで海中で作られる泡の輪っかのようだ。ゆらゆら、ゆらゆら。

「ねぇねぇ、どうしてどうして?」

 まん丸い目を向けて、少女は問いかける。

「んー……。そうだな、これはきっと、緩慢な自殺なんだよ。こうやってじわじわ自分を追い詰めて、出来もしない自殺を、味わっているんだ」

「かんまん?」

「お前には難しかったな」

「よくわかんない!」

「わかんなくていいんだよ」

 叔父は、悲しそうな困ったような微笑みで、少女の頭をくしゃりと撫でた。少女を見つめる目は、少し悲しそうだった。

 そして、それから十年。

「緩慢な自殺、ね」

 少女は、叔父の好きだった煙草を見つめる。長い黒髪が、少女の顔を隠す。表情は見えず、落ち着いた声色だけが部屋に響いていた。

 叔父の作品が並ぶ部屋。色とりどりに飾られた完成作が、部屋に無造作に置かれていた。

「長い自殺だこと」

 何年もかけて。自分で死ねない弱虫は、実に緩慢に、死を迎え入れた。その甲斐あってか、は知らないが、叔父は病気で、四十になる手前で亡くなった。

 私だけが入れた叔父の部屋。私だけに鍵の在処を教えてくれた、叔父。
 何年も、もう此処には足を運んでいなかったことを、今更になって気付いた。
 少し埃の被った作品も、凄く、素敵だ。

 そして少女は、私は、十年越しに、あの緩慢な自殺の理由を、知るのだ。

「……お母さん」

 笑顔で、きらきら。何枚も何枚も、きらきらの笑顔のお母さんが、違う方を見て、凄く楽しそうな表情をしている。
 正面、つまり叔父を向いた絵は一枚もなかった。きっと、お母さんの見つめる先は、一度も、叔父にはならなかったんだろう。
 だってその先には、お父さんが居たのだから。

 何をしたって、一度たりともこちらを向かない人を、叔父は、心の底から、愛したのだ。
 お母さんの絵で埋められた、この部屋がそれを物語っていた。

 叔父は、叔父に振り向かないお母さんの子ども、私のことをどう思っていたのだろう。憎んでいた?嫌っていた?お母さんの代わりだった?叔父に懐く私を見て、お父さんに対する優越感を抱いたのだろうか?

 淡く、仄かな感情が、あの煙草の煙のように、ゆらゆら、ゆらゆら、私の心に漂う。
 いつだって叔父は私じゃなく、私越しに、お母さんを見ていたのだろうか。


「……あ」

 部屋の隅に、描きかけの作品。鉛筆で、丁寧に仕上げられた、優しい作品。
 そこには、お母さんじゃない。
 紛れもなく、幼かった日の、私の絵。

 笑顔の私の絵は、描きかけのまま。

 それでも、叔父は、私を見ていたんだ。そう思うと、自然に笑みがこぼれた。

 ゆらゆら、ゆらゆら。
 幼き日の泡のような恋心。

「大好きだったよ、おじさん」

 それはきっと、恋であって、恋ではなかったのだろうけれど、私の大切な初恋の、思い出なのだ。

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