スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

計画2

「でも、魔法を修得したら使える。召喚魔法レベル4、『物質転移』。そう、僕らは『物質転移』という名で習った。けれどこの魔法の名前、本当は『間接空間連結』。つまり、人間界の物質を一旦魔法界を通し、再び持ち主のいる人間界へ送る魔法だ」


「そうか。だがまだ疑問がある。なぜ魔法界を通さないといけないんだ?」


「簡単。人間界にはそもそも魔力なんてないからだよ。あるのは空気と磁力と大気圧とその他もろもろだけ。でもここは違う。それら+魔力がある」


燎は続けた。


「人間界から魔法界への干渉はできないけど、魔法界の者ならできる。それなら僕がここにこれたのも説明できるだろ?でも魔法を使えるけど魔法界の人間じゃないやつが、魔法界を通して物質を転移できている。それは、魔法界が人間の干渉域を定めているからなんだよ」


「つまり、魔法界を通しての物質の転移ぐらいは寛容しているということなんだな?」


「正解。あと召喚体とかも寛容されているけどね」


東野の疑問は完全に解けた。召喚魔法で自身を別の場所に転移する者も、一旦魔法界を通っているということだ。


先ほど自分が通ってきた、あのまどろんだ空間。あれが魔法界と人間界のはざまなのだろう。


「人間界と魔法界のはざまに取り残されたら、どうなるんだ?」


燎の目が再び丸くなった。今度は口元に笑みはない。


「知りたいの?」


「ああ」


「じゃあ答えようか」


「?!」


いつの間にあらわれたのか。暖炉の側の影で一人の男が腕を組んで立っていた。


「はざまに取り残されたら、二度と戻ってこれない。運良く空間が開いたとしても、いつの時代のどこの世界かわからない。そこは地獄かもしれない」


男は、失礼、と言って燎の隣に腰掛けた。東野と向かい合う。


「わたしは雅宮愛史。ここの幹部をしている者だ」


男はにこりと微笑んだ。年は40を越えたあたり。ダークブラウンの髪をだらりと伸ばし、時々前髪が顔を隠している。品のある風格だが、その顔はどこかやつれていた。目の下に青いクマがあった。


「アイ叔父さんは唯一、そのはざまを生きて脱出した人間なんだよ」


「そうだよ。わたしは昔、友人の悪戯ではざまに放り投げられてしまってね。それから20年位経ったころに、偶然、もう一度同じ世界に戻る事ができたんだよ」


まるでおとぎ話を語っているようだった。


「その間、一体どうやって生活していたんだ?」


「はざまは時間の流れにアバウトでね。実際わたしがはざまにいた時間は、体感で2日くらいだったんだ。けど、元の世界では既に20年が経過していた。世界に戻ると、少年のわたしは20年後の姿になってね。自分でもびっくりしたよ」


愛史は笑っていた。少々ヘビーな話だが、自分ではいい思い出と認識しているのだ。


「それで、本題に入りたいんだ。いいかな?」


「アイ叔父さん、東野君は信頼できそう?」


急に二人の表情が一変し、険しい顔つきになった。


「そうだね。いい人そうだ」


愛史は足を組み、燎は腕を組んだ。





「ひとつ、温めている計画があるんだ」





「葉山紗奈、御神紗貴子、佐々原明を誘拐する」


計画1

「私の昔話なんて聞いてもなんにもならないわね。ごめんなさい」


理香は温和な母親の表情に戻った。


「いいや…」


このとき初めて東野は自分の鼓動の高鳴りに気が付いた。たったこれだけの表情で自分は気圧されていたのだ。


「ここが東野君の部屋よ」


「ああ」


東野が通された部屋は、昔絵本で見たようなエリオス国の一室だった。


部屋の最奥では暖かそうな暖炉が煌々と燃え盛っていて、アンティーク調のテーブルやソファが置いてあった。


「とりあえず今日は休んで。明日の朝に全員あつまって紹介するから」


理香は胸元でだだをこねる子供をなだめながら去って行った。


「失礼します」


「…燎か」


入れ違いで燎が入ってきた。


「ちょっと話ししない?」


燎は我が物顔で近くのソファに座った。


「ああ。色々聞きたい事があるし」


「じゃあまずはお茶でも飲もう」


燎は宙を撫でた。するとそこからカップ二つが現れる。


「どういうことだ?」


「簡単だよ」


燎は一つカップを渡しながら笑った。


「ここは魔法界なんだ。夢みたいだろ?人間は誰も知らない。知ってるのは宇宙連邦軍の上層部だけだ」


「なんでもできるのか」


「大抵のことは」


そういって燎は、大皿に並べられたチョコレートを空間から取り出してみせた。


「といっても、お金は引き落とされるけど」


「つまり、既製品を呼び出しているというのか?」


「うん。呑み込み早いね。魔法界のレストランとか菓子屋がやってるサービスだよ。人間会でいうとデリバリーかな。こっちじゃセルフデリバリーってとこ」


東野は納得しなかった。正確には、疑問点が浮かんだ。


「例えばの話しだが、人間界じゃ武器を空間から呼び出すことができる。俺達特定の者だけだが。それはどういうことだ?武器は魔法界に保存しているということか?」


燎は目を丸くした。口元がにやけている。そしてもう一度、『早いね』と言った。


「そう。向こうじゃ武器を呼び出すことが出来る。けど一般人じゃ無理だ。魔法も一般人には使えない」


燎はチョコレートを齧った。

My Decemeber

クロノスの重々しい表情が、それが嘘ではないことを告げていた。

「燎なのか?」
「いいや。…凍條黎、その少年の子供じゃ」
「凍條は知っているのか?」
「いいや。まったく知らないじゃろう。知っているとすれば、夕莉本人じゃ。今はまだ自らが妊娠していると気づいていないが・・・。お前も見たじゃろう?夕莉が青白い顔で運ばれていった様子を」
「初期症状…」
「そうじゃ。それもいずれ気づく事。…あの子は、夕莉は運命を断ち切る剣を産む」
「待て、もう少し分かりやすく説明しろ」
「…喋りすぎたの・・・これ以上は・・・」

台詞の後半をつまらせ、クロノスは消えていった」

「クロノス!」

東野が叫ぶ。しかしクロノスは消え去り、同時に時の流れも元に戻った。

「どうしたの?誰かいた?」
「・・・いや、なんでもない」
「そ。ああ、東野君の部屋まで案内するから来てちょうだい」

東野は茶をキッチンに置いて戻ってきた理香の後をついていった。それにしても先ほどの剣とはどういう意味なのか。凍條と夕莉の子供は誰の運命をさえぎるのか。

「あ、燎。夕莉どうだった?」
「部屋まで運んだから、あとは自分でできると思うけど…なんか心配」

途中、燎とすれ違った。

「そう。夕食はあの子だけおかゆでもいいと思う?」
「そのほうがいいかもしれないね」
「じゃあ亜由子に会ったら言っといて。私、午後からいないから」
「わかった。それじゃ」
「うん」

燎と理香の会話は親しげな親子のようにも見えた。手を振り、別れたあとで東野はたずねてみた。

「ここのメンバーは誰でもこんな感じなのか?」
「うん?そうね。堅苦しいとかは無いかも。どうして?」
「雰囲気が、・・・家族のように感じた」
「まあ、確かに雰囲気は家族ね。あなたの家もそうだったの?」

ああ。

東野はそう言いかけて、目を細めた。
自身を産んだ親のことなどもう、向こうに置いてきた。
今は目の前の生活に早く適応することが最優先事項だ。

「私は違ったわ」

理香は悲しげに微笑んだ。

「私は伊賀の忍の末裔だった。女当主として生まれながらにその地位についてたの。先代が甲賀者に殺されてね。・・・厳しかった。けど、表の世では学生としてとても楽しかった」

ちょうど二人の後ろから軽快な足音が近づいてきた。

「おかーさーん!ただいま!」
「あら、お帰り」

背の低い少年・小学校低学年くらいだろうか。少年は母親・理香の元に駆け寄るとだっこをねだるようにその足元にすがりついた。

「けど、16のある日、私は伊賀の里を追い出され、同時に私のいなくなった伊賀は潰れた」

理香は我が子を抱き上げた。子は不思議そうな顔をして東野と理香を交互に見つめた。

「この子ができたからなの。相手は当時、甲賀の当主だった葉山月影。・・・口だけの、『易しい人』だったわ」

よく見れば、その笑みは単に口を両端に吊り上げているだけで、寂感のほかにどこか狡猾したものが見え隠れしていた。
出会ってまだ数分しか経っていないというのに、この理香という女がどういう人物か東野は悟り始めていた。

胎動

 女性のまどろみのように陰鬱な空間を抜けると、そこは見慣れない家の中だった。
 屋敷とでもいうべきか。中は相当広く、黒く輝く大理石が床をうめている。

「うわ、こんな時間なのに蝋燭ともしちゃって」

燎は一定間隔で壁に据えられた蝋燭を消した。指一つ鳴らしただけで。

「ここはどこなんだ?」
「いっただろ?僕等の家さ。ここは玄関。さ、どうぞこっち」

燎はゆったりとした歩調で、訝しがる東野を案内した。
だだっ広い廊下には所々に武器が掲げてあり、そのどれもが錆びついていた。

「あの武器…」
「ああ、高臣の趣味。敵の武器だよ。血を拭かないまま飾るからどんどん錆びちゃうんだ」
「それも趣味か?」
「そのようだね」

先に進むにつれて、武器の数も多くなってくる。その中に赤黒いひもが一本、壁に打ちかけられていた。
東野はそれに見覚えがあった。いや、以前の東野に。

「あの武器…か?以前の俺が記憶しているんだ」
「あのひもね。二ヶ月くらい前、僕が学校を襲撃したときに使ったひもだよ」
「『神殺し』」

燎はなかば驚いたような表情で東野を凝視した。

「以前の君の記憶力はすごいね。そうだよ。あれは弁財天という日本の神の持ち物だった」
「お前が奪ったのか」
「そうだよ。神殺しがボクの仕事だからね」
「なぜに神を?」

燎はためらう事無く即答した。

「ボクは神に触れられ、対峙できる存在だからだよ」
「そうか…。お前は自分の腕を試したいんだな」
「そのとおり。分かってくれるんだ」
「ああ。お前に封じ込められていた分、殺し足りなかったからな」
「ボクを恨んでる?」
「いや、むしろ感謝したいくらいだ。…ここは強いやつがたくさん居そうだ」

燎は天使的な笑みを浮かべて「よかった」と笑った。

「だって、ボクを殺したら誰が凍條に復讐するんだって話だよね」

話の後半は、殺気立つ東野の耳には聞こえて無かった。
だがそれでいい。
 燎が本当に復讐を望む相手、それは翔ではなく凍條だった。
 翔など眼中にも入っていない。
 燎の手は今にも凍條を殺したくて震えていた。

「ここだよ。ただいまー」

廊下をぬけ、右に突き当たったところに巨大な扉があった。燎はそれを押し開け、東野を手招きした。

「おかえりなさい。…その子が新人?」

そこは30畳はあろうかというリビングだった。大きな窓際にはアールデコ調のソファが悠然と横たわっている。
その上にすわり、優雅に茶をすすっていたのは20代後半くらいの女性だった。長い髪を簡素にまとめ、薄化粧をしたその女性は東野に愛想良くほほえみかける。

「ああ、帰ってたんだね。東野くん、この人は関野理香さん。ここの魔術研究をしている人」
「東野だ。色々世話になる」
「よろしくね、東野君」

燎の予想とは違い、律儀な態度を示す東野に少し疑問を抱く。

「あれ?殺気だってたハズじゃなかったの?」
「俺だって力の差くらい分かっている。この女相手では到底勝てない」
「そっか。ちなみに理香さんがこの中じゃ一番弱い方だから」
「…本当か?」
「本当」

 燎がほくそ笑んだときだった。今しがた燎が入ってきたドアが開き、誰かが入ってきたのだ。

「おかえりなさい。昼食の準備、できてるよ」

理香が東野の向こうに目をやった。つられて二人もその誰かをのぞく。

「…ただいま。ごめん、理香さん。なんか気分悪くて…」
「夕莉!」
「あ、燎。帰ってたのね」

金髪混じりの茶髪。口元にほくろのある女が、青ざめた顔に無理やり笑顔をつくる。
燎の表情が一変したのはそれよりも早かった。
普段の天使的なポーカーフェイスを崩し、心の底から心配しているかのような物腰になる。

「大丈夫?真っ青だよ。なんかあったの?」
「ううん。特に何もないんだけどね…ちょっと任務先で倒れちゃって。途中で帰ってきたの」
「そう。とりあえず着替えて、早く横にならないと。部屋まで送るよ」

夕莉は燎の差し出した手をやさしく掴んで拒んだ。

「大丈夫。あれ?新人さんかな?よろしく。私は夕莉…っと」

夕莉は新客に向かって手を差し出したが、大きくよろけ、転びそうになる。

「ごめんなさい。あれ?なんだか…気持ち悪くてっ」

床に膝をつく夕莉を燎は抱えあげた。

「燎、大丈夫だから。下ろして」
「どう見ても大丈夫じゃないよね。静かにして。上まで運ぶよ」
「…ごめん。ごめんね」
「謝んないでよ。このぐらいで」

燎は東野にばつの悪そうな顔をし、夕莉を運んでいった。

「…あの二人、何かあるのか?」
「やっぱりそう見える?」

残された二人はその様子を懸念しはじめた。

「でもね、それは燎の一方通行みたいなの」
「ふん…」

そんなこと、東野にとってはどうでも良かった。ただひとつ気がかりなことがある。
あの女は確か、夕莉といった。

「夕莉…もしかして凍條の…」

東野は記憶を手繰り寄せる。自分が覚醒する前、時の神クロノスによって見せられたあの白灰色の情景を。

「クロノス」

一瞬にして目の前の景色がセピア色に変わる。茶を片付けようとしている理香の動きが止まる。

「いるんだろ?」
「お前さんとは久しぶりじゃの。呼んだか」

東野の横で応答はあった。

「夕莉という女が気になる」
「わしが見せたからの」
「なぜ見せた?以前の俺は気にも止めなかったようだけど」

クロノスは目を伏せた。

「この物語の終焉を告げるのは、お前か凍條黎かはっきりさせておきたかったんじゃ」
「わからないな。終焉とはどういうことだ」
「原因を造ったのは誰か、という事じゃ。今、この世界の運命はお前と凍條黎にゆだねられている」
「どういう…?」
「この次に起こる災厄が、お前達の運命の別れ道なのじゃ。どちらかが生きるか死ぬか。どちらかが死んでも戦いは終わらぬ。だが、一方が命と引き換えに世界を護ることができる」
「それはどっちだ?クロノス、お前には見えるんだろう?教えろ」
「お前さんにも見えるじゃろう。すべてはお前とお前の中のぼうずが見定めればよい」
「俺の中…あいつまだ生きているのか!」
「当たり前じゃ。それに、お前達が運命を分かつとき、生み出された新しい命はもう、運命を背に歩き出している」
「クロノス・・・?」

クロノスは子供を慈しむ祖父のように目を細めた。

「新たな波乱の幕開けかもしれない。じゃが…命は一つではない。新たな命には新たな

仲間がおる。そう、ちょうどお前達子供のように」

「どういうことだ?新しい…命とは?」
「・・・あの少女。夕莉は…子を身篭っておる」
前の記事へ 次の記事へ
カレンダー
<< 2024年05月 >>
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
最近の記事一覧
カテゴリー