話題:創作世界披露会及び創作メモ帳



どうすればいいのかわからない、この痛みは大嫌いだ。












「悲しい?」

膝の上の栗色に問い掛けると、くるりとこちらを振り返って彼女は笑った。そこに曖昧な悲しさをにじませて。


「どこかに頭打ち付けて死んじゃいたいくらいにはね」
「そう。けどそれは痛そうだね」
「だからやめにしたのよ」


栗色が揺れる。
今回のことはこの栗色が原因だ。
咲季は全体的に色素が薄い。
透き通るような肌も、夕日に照らされるとそれはもう綺麗に煌めく。
きらきらと、空の美しさが詰まったようなそれは、ときに彼女を苦しめるらしい。

先生の注意は勿論のこと、クラスメートからも揶揄されることが多い。それはきっと、彼女が真面目で、優しすぎるから。
何かを言われるたびに彼女はふわりと笑って訂正するが、先生はともかくクラスメートにはそれが面白くないらしい。
特に女子生徒にはあからさまに一線をひかれている。

けれど、何があっても彼女の凛とした美しさが損なわれることはなく、寧ろ、日に日にその透き通る強さを増している気がした。


だから知らなかった。
彼女のその強さは、弱さあってこそのものなんだと。



「ねぇ、」
「ん?」
「こんなに弱音を吐く女の子は嫌い?」
「いや。頼られるのは嫌いじゃないから、とても嬉しいよ」



本心だった。
彼女の、僕が知らなかった彼女の一面を見ることができて、それが僕だけに向けられているのだと思うと、とても嬉しい。
ひとつ黒があるなら、彼女の内側を覗いたところで臆病な僕には何もできないということだろうか。
今こうしている時も、僕は彼女にかける思いやりや優しさの言葉ひとつ吐き出せない。

それどころか、彼女にこんな思いをさせた奴に対して、心の奥底から、ざりざりとした黒い塊が込み上げる。
水が布へ浸透するように、ゆっくりと。


(あぁ……だめだ)


胸の内に溢れんとしているこれは、彼女がとても嫌いなものだ。
膝の上から温かさが消えた。
感じる重さはあまり変わらなかった。

顔をあげた僕の目の前、栗色がさらりと重力にひかれた。
柔らかく、夕日に照らされると金糸のようなそれを彼女の白く形の整った細長い指が絡めとる。

ふ、と息をはいて彼女は茶色がちな瞳に僕をうつした。
黒い瞳孔が微かに小さくなったのを見つめながら僕は息をすることを忘れた。

魅せられる、


息をしていたことすら忘れてしまう。
柔らかい水底に沈んでいくような。


「お腹すいたね」
「え?あ、うん。そうだね。何しよっか」
「今日はイタリアンな気分かな」「えっと……じゃあ、パスタとかどうかな?」
「ペペロンチーノがいいな」
「了解。早めの方がいいかな?もう作り出そうか?」