昇段審査の翌日、顧問に報告し普通の日々が始まった。
中学生にあがって初めて味わった絶望感に浸っていると、さして仲がよくない男子に話しかけられた。
「鮎井って剣道の審査一人だけ落ちたんだって?」
「誰に聞いたの?!」
「え、いや山石崎だけど…」
そいつは一緒に受けたヤツだった。
言いふらしてるのか…私しか落ちなかったって!!!!
恥ずかしさと怒りがわきにわきまくった。
そして山石崎を捕まえると開口一番こう言った。
「お前を一生恨んでやる!」
今思えば誰かのせいにしたかったのかもしれない。
そうしないと自分がもっとダメになってしまいそうで、なにかを糧にしたかった。
でもこの怒りお陰で練習に真面目に打ち込み、自信を持って次の昇段審査に挑めたので今になって思えばこいつには感謝すべきなのかもしれない。
まぁそんなことをこの時の私が思えるわけもなく、それからと言うものそいつが視界に入る度睨んでいた。
部活にもなれてきた頃、昇段審査と言うものを受けることになっていた。
剣道の一級と言えば声を出して、自分から向かっていけば大抵は受かる。
そう先輩にも言われていたけど、いかんせん私は極度の緊張症だったのだ。
前日からずっと緊張していて、袴に着替えるときも手が震えていた。
狭めの体育館が広く感じ完全に空気に飲み込まれた私は、審査が始まっても声が出なかった。
ただカンッカンッと竹刀がぶつかる音がする。
審査が終わると同時に自分の中でもわかってしまった。
これはダメだ…
先輩たちが大丈夫だよ、と言ってくれたけど笑い返すことができなかった。
ほとんどの人が受かる試験…落ちるなんて恥ずかしい…
もし落ちたらガラス張りの窓をぶち破って逃げ出してしまいたい…
不安は不安しか生まず、ただ発表を待つ時間が長く感じられた。
そして合否が発表されるときがきた。
ボードに張り出されダメだった場合は×印が番号についている。
結果は…やはりダメだった。
ポツリポツリとしかついていない×印が余計に心を軋ませた。
涙が溢れるかと思ったらそうでもなく、ただボーッとしていた。
そしたら先輩が駆け寄ってきて抱き締めてくれた。
なんだか…いたたまれなくて、空気になってしまいたいと思った。
結局私以外の一年生はみんな受かっていて、私一人だけがダメだった。
顧問に報告したとき必要以上に驚かれた、「ほとんど落ちない試験に落ちるやつが、ついにうちからも出たなぁ」
と言われ私はうつむくことしかできなかった。
そう、私は自分に負けたのだ。
悔しさとか悲しさとかもうぐちゃぐちゃになって、本当に消えてしまいたかった。
中学にはいって少し慣れ始めた6月頃、もっと交流を深めよう、と言うのを目的に野田清水公園に遠足に行くことになっていた。
そこは色々な種類のアスレチックが多いことで有名な場所で、小学校から上がりたての私達は密かにワクワクした。
着いてからは班に分かれゴールを目指すことになっていたのだが…
この公園のアスレチックがもうひとつ有名な理由は、水の上にあり、失敗したらドボンと言う非常に危険な遊び場なのだ。
だから持ち物に着替えと書いてあったのか…と皆納得した。
しかし先ほども言ったように小学校から上がったばかりの私達は、まだ子供。
子供は水が大好き(´∀`)その水がどんなに濁っていて汚くてもだ…
と言うわけで、ターザンが川へ飛び込むかのごとく入水する者。
みずからわざとらしく転んで水へ入る者。
そして本気で落ちる者が続出した。
まぁそのほとんどが男子だったわけで、思春期に入りたての女子は本気で落ちるまいと頑張っていた。
私もいち女子として気を張っていたが、水の上に浮いた橋の上を渡ろうとしたとき、水に一度落ちたことでタガが外れた男子が思いっきり橋を揺らしてきたのだ。
その時は私一人しか橋に乗っておらず、難を逃れた山ちゃんとりーちゃんが必死に私を助けようとしてくれた。
しかし、バランスを崩した私は右足を綺麗とは言えない池の中へ入れてしまった。
だけど何としても全部落ちるのは阻止したい!!と言う一心で、紐を掴み何とか片足だけの被害でおさまった。
だか替えの靴下や靴なんて持ってきてない…
怒りはもちろんその男子に向けられたが、私の怒りを察してか泥水の中へ消えていった。
今でも水を得た男子ほどたちの悪いものはいない、と改めて思う。
仕方なく裸足で帰ることになり本当に泣きそうになった。
しかも腐った水の中へ大分した男子のせいで、帰りのバスのなかは異臭が充満し、気持ち悪くなる者が続出したことは言うまでもない。
うちの給食は小学校のころからちょっと楽しみだった。
なぜなら和食と洋食をチョイスできるからだ。
新しい月に入る前にその月の献立表が配られマークシートに記入して、1ヶ月分の食券を貰えると言う仕組みになっている。
はじめてもらえた時は本当にときめいた、私は洋食派だったのでもっぱらB定食が多かったのだが…
そんなわけで楽しみの給食の時間だった。
このころになるとクラス内になんとなく仲良し組が出来て別れていく。
可愛い子組、面白い子組、中立組、あぶれ組、私は中立組で山ちゃんと小学校から一緒だった大林理緒沙(おおばやしりおさ)通称りーちゃんとの三人組で動いていた。
大抵はその三人でランチルームに向かい、大体決まった席についてご飯を食べる。
うちの給食は美味で行事があると骨付きの照り焼きみたいなチキンが出てきたりしていた。
そのなかでも好きだったのがあげパン…
小学校にいたころから好きだったあげパンが中学生になっても味わえるなんて至福だった。
こんな小さなことで幸せを噛み締めることができる私は安い女だったなぁと今でも思う…
栽培委員会では各クラス男女二名ずつが選ばれた。
そこで隣のクラスの栽培委員として出会ったのが、春川とおる(はるかわとおる)さんだった。
とおると言う名前だけど美人で頭が良く、運動絵画音楽も素晴らしくでき、まさに天才と言う言葉がピッタリの女子でした。
あだ名まで可愛くみんなに“はるわん”を呼ばれていて、そんな完璧を絵に描いたような彼女が、ある時衝撃のものを学校へ持ってきた。
はるわん「詩子ちゃんこれ読む?」
そう言って微笑みながら渡したのは…
“シャー〇ンキング”の同人誌でした。
しかしピュアだった私はなにも疑いもせず
私「うんっ(*´Д`)」
憧れのはるわんが貸してくれたその本をよろこびいさんで読みました。
私「………(*゚ロ゚*)」
記念すべき初BLは刀鍛冶×白髪の剣士。
その衝撃たるや…もう一人で興奮しまくってました。
私の心の声(すんげぇ…男と男の恋愛ってなんて素敵なんだぁ(´∀`*))
まぁそんなこんなではるわんに誘われるがままNAR〇TOのカ〇イルに目覚めたわけなのです。
もっぱら授業中に妄想にふけり、ノートはイ〇カ先生で埋め尽くされていた時期もありました苦笑