この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。
ログイン |
しまった、と思ったのは、会計をした後だった。
「好きだ!」
我らが船長のそんな言葉を聞き、ドアを開ける事を躊躇った。
食事の準備が出来て、呼びに来ただけなのに、まさかの最悪のタイミングか。おれは銜えていた煙草を落としかけて、動揺している事に気付いた。
男部屋には今、船長とマリモしか居ない。好意を伝えた相手は自然と一人しか思い付かない。動揺したのもたった3秒くらいの事だったと思う。だから、マリモは一呼吸の後には、返事をしていた。
「知ってる」
それも更に追い打ちのようにおれにショックを与えた。
マジか。クルーが男同士で出来てるとかマジか。早まったかおれ。
「でも」
「解ってる! 軽々しく言うな、だろ!」
「ああ、」
これは、あれか。
隠すとか、一応、そのつもりか? だが、こんなに大声で言うようじゃ、おれより先に一味にいたナミさんやウソップにはバレてる気がする。二人とも、よく気がつくから(特にナミさん!)。
しかし、あっさりと予想を超えた理由を、マリモの野郎が口にした。
「船長が一人を特別扱いするな」
「してないけどな、ゾロが厳しいんだ!」
「お前の為に言ってんだよ」
まさか、あの野郎、ルフィを船長として立てる為に自分を律しているとでも言うのか。
ルフィが自分一人に固執しないように。平等でいれるように。恋人でありながら独占しないように。
おれは少し迷ったが、ならばと思いドアを乱暴に叩き、敢えて二人の邪魔をした。
「おい、メシ出来たぞクソ野郎ども!」
ドアを開けないのはせめてもの優しさだ。中からルフィが「10秒で行く!」と返事をした。その10秒で、一瞬室内が静かになったのを、空気で感じた。おれの優しさが無駄にならなかったようで、良かったのか胸糞悪いのか。微妙な所である。
室内では、触れるだけのキスを、ルフィからゾロに、仕掛けている最中だった。5秒程経って、離れたルフィは幸せそうに笑っていて、内緒だと言うように、唇に人差し指を当てた。そして、部屋を出ていく。ぴったり10秒。
それで、十分だった。ゾロには、たった5秒程度、自分だけのものになってくれる船長が、堪らなく愛しかった。
『たとえば きみが』
戦闘の度に、大きな安心感に隠れた不安や恐怖と戦っている。
自分自身は、この船長についていくと決めた瞬間から、命を落とす覚悟は出来ている。なのに、感情は意思と関係なくあっさりと矛盾して、自分の死は受け入れられるというのに、
(こいつが死ぬのは、考えたくもねぇな)
ぼさぼさの黒髪にシャンプーの泡が絡みつき、わしゃわしゃと手を動かすと更に泡だらけになった。鏡を見たルフィは、「ひつじみたいだな!」と笑っていたが、本当は早く済まして欲しいのだろう、足が忙しなくバタバタと動いている。
今日はルフィの嫌いな、『湯船に浸かる日』だ。嫌だ嫌だとあんまり言うものだから、ナミに無理やり洗うように言われ、仕方なく従った。しかしルフィは存外素直に浴室についてきた。理由は簡単、「ゾロがおれを洗ってくれるんだよな!」である。要するに自分が何もしなくていい点が、良かったらしい。
「流すぞ」
「おー」
桶で湯船から湯を掬い、何度かざぶざぶと頭に掛けてやる。すっかり泡が落ち、ルフィは犬のように頭を振って水滴を飛ばした。体は先に洗っておいたから、後は浸かるだけである。
「だっこ!」
「わーったから、バタバタすんなって」
仮にも、自分の事を好きだと言っている男に対して随分と無防備な、と心配になる。まぁ、今の所手を出しているのはおれだけのようなので、却って信頼の証かも知れない。
ルフィを膝に乗せて肩まで湯船に浸かると、ルフィの体は途端に脱力する。顎の辺りを撫でる洗い立ての髪が少しくすぐったいが、当の本人はおれの肩に頭を乗せて鼻歌など歌ってご機嫌な様子である。
腹に手を回し、何とはなしにきつめに抱き締めると、ルフィは「ん?」と声を出した。どうかしたか、訊きたいようだった。
「別に、どうもしねぇ」
「ふーん、珍しいな。甘えてんのか?」
「甘え……」
ルフィがおれに、じゃなく、おれがルフィに、か。その発想は流石に無かった。だがある意味、的を得ている。
甘えている訳ではないが、求めている。いやらしい意味ではない。ただ、ひたすら、存在が欲しい。この上無く自由人であるルフィが、「おれだけのもの」になる事は不可能だ。だからこそ惹かれ、慕い、命を賭けても良いと、思う相手なのだ。
そう、『命』だ。
「ルフィ、もしおれが……」
「……?」
言い淀むとルフィは首を動かしてちらりとおれを見た。
もしも、の話だ。躊躇う方が不自然か。
「もしおれが、お前に取って望まない行動を取るとしたら、お前はおれを嫌いになるか?」
言ってみて、なんと情けない問いだろうと思った。らしくもない。
だけど、もしそうなら、例えばおれが命を捨てる事でルフィが助かるような場面が訪れたとして、死して恨まれるよりも、ずっと好かれていたいと思う。
「難しい事はよくわかんないけどよ」
問いの真意に気付いているのかいないのか、余りにも普段通りの表情で、少し戸惑いを覚えたのも事実だが、まあルフィにとっては『らしい』。
「もう好きになっちまったからな、嫌いになる事はないんじゃないかな!」
「……そうか、それだけ聴けりゃあ、十分だな」
「あ、でも怒るかも知んないけどな!」
「はは、そうかよ」
丸で永遠の誓い。
こいつの為に命を賭ける事は容易い。
だが、おれだってどうせなら、生きてずっと傍に居たい。
栓も無く、垂れ流しの思いが混ざり合うように、暫くきつく抱き締めていた。
______________
例えば君が傷付いて 挫けそうになった時は
必ず僕が傍に居て 支えてあげるよその肩を
…っていう、卒業式とかで歌う歌あるじゃないですか。凄い好きなんですよ。だからタイトルに貰いました(爆)
スコバツがっていうより文字が久しぶりだな。おかしな点は無視して下さい。
受け止める事と受け入れる事は、意味が全く違うって、本当は誰でも知ってる。
性 別 | 女性 |
誕生日 | 12月11日 |
地 域 | 北海道 |
系 統 | 体育会系 |
職 業 | 教育・福祉 |
血液型 | B型 |