「………………」
「…見すぎ、近い、離れて」
「あっ、ごめんっ!!!」
「なに?陽菜が可愛くて見とれたの?」
「バッ…!違う何言って!!
待ち合わせに間に合ってて
びっくりしただけだからぁ!
勘違いすんな!!!」
「ふーん」
大島ってば素直じゃないの
そんな自分の着てる甚平を握り締めて 浴衣を着てる陽菜の手前、目のやり場に困ってるようじゃ 可愛くて見とれたとはならないにしても、待ち合わせに間に合ったことに驚いてる なんて、言い訳にしか聞こえないっつーの
昔は素直だったのに…
『ゆうちゃん虫ついてるー』
『うぎゃー!!!陽菜とってぇぇぇえ!!!』
『うそだよ』
『…え?』
『うそ』
騙して涙目にすることくらい容易だった
だけどいつの間にか自分が嘘吐く側になっちゃって
ま、涙目になりやすいのは変わらないけど
「いいや、行くよ」
「え、あっ、うん」
そんな大島の前でだからかな
今日は昔みたいに少しお姉さん気分
「ありがとうございましたー」
祭りが始まってから、かれこれもう三時間が経過して19時になった
始めの一時間はひどいもんで、あれやこれや言い合いながらやっていた
でもやっぱり長い付き合いのおかげか
それ以降は結構上手く切り盛りできて、陽菜たちの店の商品はさっき品切れとなり、品が運ばれるのを待つことになった
「小嶋…店なんてもう畳んじゃおうよ」
「え?だめだよ、せ-き-に-ん-か-んっ
第一品物運ばれてくるのに人いなきゃだめじゃん」
「責任感、ねぇ。
そんなに真面目ちゃんだったっけ?」
「そうだよ」
「…つまんないの」
「…えっ?」
「全部人任せで、ゆうちゃーん(бвб)って後ろをついて来る陽菜が可愛かったのに…」
「…可愛くなくなってすみませんねっ」
「んなこと言ってな…なんでもない」
「てか、だいたい陽菜 優ちゃんの後ろついてったことないし!!!」
「いやいやー(笑)」
「なんでいつも信用してくれないのー?
陽菜、お母さんから『怪しい人にはついて行っちゃだめよ』って言われてたから、優ちゃんについて行ったことないよ!」
「なんだそれ!?そんなこと言ったら陽菜だって十分怪しかったっ!!!」
「でたらめー」
「でたらめなわけあるかー!!!今時どこの小学生がポストに名前つけて歩いてるよ!!!」
「そんなのしたことないし!」
「してた!」
「してない!!」
「どーもー」
「しっ…!?」
「やっほー!楽しそうだね。」
「麻里ちゃん…」
「麻里ねぇ…」
声を掛けられて、品物が届いたかと思い口喧嘩をやめてみたけど、そこにいたのは業者の人ではなくいつも邪魔をしてくる近所のお姉さんだった
しかもしっかり盗み聞きをしていた
「篠田も混ぜてよ その会話。ちなみに ゆっぴーとにゃろは仲良く手を繋いで篠田の後ろをのたのたついてきてた」
「………………」
「篠田がいないときは どっちかって言うと、ゆっぴーがついてく側だった」
「ほらっ」
「…どっちかって言うとじゃん」
「そしてにゃろはポストに名前付けてなかったよ」
「ほーらっ!」
「……」
「名前付けてたのはポスト相手ではなく公衆電話相手だったかな?」
「…ほらみろぉ、怪しいじゃんか」
「…うっさい」
あれから数十分後品物が届いて、時々麻里ちゃんも交えながら商売を続け、お祭り終盤の時間の少し前には無事完売した。
片付けをしようとしていたら再び麻里ちゃんが他に数名引き連れて戻って来て、あとの片付けは篠田たちがやるからいいよと言ってくれた。
お言葉に甘えようか迷っていると隣から大声でさんきゅー!と大島が叫んだ。
驚いて隣を見ると大島は満面の笑みを浮かべながら
「よっしゃー!花火見れる!!」
と言って腕をぐるぐる回し、どこからか携帯を取り出した。
…花火、か。
昔までは毎年一緒に見てたのにいつからか見なくなった。
今年だってきっとそう。
その携帯で誰かに連絡して今から一緒に見るんでしょ。
女の子かな…男の子?
なんて、そんなことばかり考えてしまって。
急いで自分には関係ないことだと言い聞かせた。
だって、陽菜は別に大島のこと好きじゃない、し…
「うん、間に合うな!
小嶋、お疲れー…ってなんでそんな浮かない顔してんだよ」
「別に、大島には関係ない、じゃん」
「んなことないよ。
具合悪いの?それなら送る」
「っ、大丈夫だから!早く花火見て来なよ!!」
「…何だ?元気じゃん。
んじゃ行こーぜー」
「…は?」
「いやいや、花火。見に行こう」
え…?
大島、なんて言ったの?
状況理解に苦しんでいると大島はいきなり陽菜の浴衣を掴んで
「麻里ねぇさんきゅー!」
と言いながら歩きだした。
陽菜はよくわかんないけど、仕方なく後をついて行ってあげた。
しばらく歩くと穴場的な場所なのか、人が全くいないところに着いた。
着いたーと言いながら伸びをする大島。
…ねぇ。
「大島、なんで陽菜のこと連れてきたの?」
「…お前さ、この前の授業のこと覚えてる?」
「なにそれ」
「国語の青春の1コマ」
「あー、あれね」
「…好き」
「そのセリフ、なんか懐かし「ってさ」
「…え?」
「本気でお前に言ったらどうする?」
どーーーん
大島が小さな声でそう呟いた時、遠くで花火が打ち上がった。
そのとき照らされて見えた大島の顔は眉が下がっていて少し苦しそうで、なんだか切なかった。
大島が、陽菜を好きって言ったら、どうする?
って…そんなの。
ザッザッと草の上を歩く音を遠くで聴いているような心地。
いきなり抱き寄せられて感じた腕の温度は少し温かくて。
「好きなんだ、陽菜」
少し懐かしいゆうちゃんの匂い。
さっきまで大はしゃぎしていた人とは別人のようで、少し不安そうで、でも優しい声がすごく心地よかった。
「…ねえ、ゆうちゃん」
「…はい」
「陽菜も好きだよ」
「…もいっかい、言って」
「ゆうちゃん。陽菜ね」
ずっと前からゆうちゃんのこと好きだったんだよ。