よくある御伽噺
ニコニコ動画の「癒しと盛り上がりの和風ピアノ?3」を聴いてたら書きたくなった。
駄文でしかないので注意。
でもこのBGMは森見さんよ宵山に凄くあっててだいすき。
風が吹いた。
大きな桜の木が揺れる。
その風が気持ちよくて、俺は少し、深呼吸する。
ここのところ体調があまりよくないから、こういう風は助かる。
毎日、此処で会う少女がいる。今日も、ほら。
桜の木の下で、すれ違う。
透き通るような白い肌に、漆黒の長い髪。薄い桃色に彩られた唇と頬は、純粋に綺麗だ、と思った。
少女は毎朝俺に微笑んで、何かを言って何処かへと行ってしまう。
いつもその言葉が、聞き取れないのだ。
ある日、大きな桜の木が消えていた。
根本には、大きな切り株が残っていた。切り倒されたんだ、と思った。
そう思った瞬間、体に電流が走ったような気がした。
今日も少女に会った。
とても悲しそうな顔をしていた。
俺の姿を見ると、大きな瞳に涙を浮かべた。
「ごめんなさい」
どうしてだろう。今日は少女の声が、はっきりと聞こえる。こんな声をしていたんだ。
そう思うと同時に、頭の中がぼんやりしてきた。
「おばあちゃんとの約束が守れなくてごめんなさい、あなたを助けられなくてごめんなさい」
どうしてそんなことを言うのか、俺には分からなかった。でも、一つだけ思い出したことがある。
俺は、彼女に恋をしていたんだ。
正確には、少女のお祖母さん。俺と、同級生だったあの子だ。
どうしてこんな大事なことを忘れていたんだろうか。
今となっては思い出せそうにもない。
ただ、この桜の木の下で約束したのは思い出した。
「何があっても、この桜の木の下で俺は待ってる」
ああ、そうか。
だから俺はずっと、此処にいたんだ。
「おばあちゃんはあなたに会いたがってたの。でも、此処に戻ってきたときはもう、外にはでられなかった。おじいちゃんと結婚した後も、わたしのお母さんを生んだあとも、忘れたことはなかったって。わたしがおばあちゃんにあなたの姿を見たっていったら、とても、喜んでた」
俺が忘れた約束を、憶えててくれた。それだけで、十分だ。
「あなたを守るのがわたしの役目だったのに、本当に、ごめんなさい」
そういって泣く少女に、あの頃の姿を思い出す。
あのときも確か、彼女は泣いていた。
俺が、死んだときだ。
うまく声がでるかわからない。でも、これだけは伝えよう。
「約束を覚えててくれて、ありがとう」
目の前の少女の頭をなでた。
しかし、その手は少女をすり抜けた。
もう、時間切れのようだった。
その後のことは覚えていない。
というより、分からないと言った方が正しい気がする。
それでも俺は、
幸せだった。