話題:同性愛
初めての恋人は女性だった。
高校一年の夏、生まれて初めて恋人が出来た。彼女は私より一つ下、当時中学生だった。
明るく太陽のような彼女に私はよく救われた。
出逢いは好きなバンドのファンが集まるオフ会。人見知りの私はうまく話せなくて内容なんてほとんど覚えていない。けれど彼女とは不思議と波長が合って、その後もよく遊びに出掛けた。
当時私はネット上で知り合った別の女性に憧れを抱き、片思いのようなものをしていた。
相手にとっては迷惑だろうとネガティブに考え、誰にも相談できずに一人毎夜溜め息をついた。「せめて住んでいる場所がもっと近かったら」と。そうしたらこんな私でも勇気を出して仲良くなれたかもしれないのに。
そんな絵空事に胸を痛めた。
いつものように彼女と遊んで帰りの電車を待つ数十分、何故か私はその片思いの恋話をした。慰めて欲しかったのか、ただ受け入れてほしかったのか、きっとどちらの気持ちもあった。そして彼女は肯定してくれるような気がしていた。
深刻にならないように、笑い話に出来るように。彼女は真剣に話を聞いてくれた。
そして話が終わるとぽつりと呟くように言った。「私じゃ貴女を幸せに出来ないのかな」
そんな事ない、と返事をした。
私はいつも彼女に助けられている。だからこの生き辛い世界でも生きてゆけるのだ。
「貴女を幸せにしてあげたい。ううん、一緒に幸せになりたい。私、貴女がずっと好きだった」
思いがけない告白だった。でも私もずっと出逢った時から惹かれていた。彼女の存在が大切だったから。
そうして私達のお付き合いが始まった。
順調だった。とても幸せな毎日だった。
お互いの家に泊まり合って口付けを交わし抱き合って一緒に眠った。このままの時間が続けばいいなあと思っていた。
ある時彼女と街へ出掛けた。些細な出来事で口論になった。喫茶店に入っても彼女の機嫌は治まらなかった。正直うんざりして「しゃあ好きにしなよ」と呆れて煙草に火をつけた。「…貴女はいつもそう。私だけが好きみたいで嫌だ」彼女はそのまま走り出し、姿が見えなくなった。追いかけなければと思ったが身体が動かない。少し彼女は嫉妬深い面があった。ずっと我慢していたが私も疲れ果てた。振り回したいのか、いったい何なんだ。
そのまま煙草を吸い終え一人家に帰った。
電車に揺られながら、今までの事を思い返していた。「貴女はいつもそう」彼女の一言が突き刺さって苦しくて、吐き気がした。メールも電話も返ってこない。さっさと死にたいなあ、と溜め息をついた。
それから暫く彼女とは逢わなかった。酷く疲れてそのまま私は鬱の沼に浸かっていた。次にあるライブだけが唯一の光で、それが終わったら死のうと考えていた。
夏、友人と大阪で行われたライブへ行った。あまりにも幸せな時間。終わる夏を感じて二人でわんわん泣いた。終了後友人が帰り道に言った。「なあ、死ぬなよ。あたしも毎日苦しくてもう嫌だって手首切るときもあるけどさ。あんたが死んだらあたしは哀しいよ」
その一言にまた私は泣いた。
夏の残響。解体される会場。ほら、夢はもう終わり。眩しい海の煌めきに、彼女と過ごした日々を思い返した。
もしかしたら恋愛ごっこだったのかもしれない。もっと強い人間だったら彼女の抱えた闇を抱きしめてあげられたのかもしれない。でも、もう。今の私じゃあ駄目なんだ。もっと強くならなきゃ、誰も幸せに出来ない。
真っ暗な部屋でいつか彼女は言った。「貴女の身体の深くに入りたい。貴女の子供が欲しい」あの時暗くて表情はよく見えなかった。もしかして泣いていたのかな。
ぎゅうと抱き締めて一緒に眠ったあのモラトリアムのような時間を、私は今でも忘れられない。