デンライナーへとオーナーに連れてこられた頃のまゆこは、荒みきっていた。
無表情で挨拶の言葉も発せず、「藤堂まゆこさんでっす」オーナーが紹介したのだ。
今はすっかり定着済みの、車内の一番端の席に付き、ずっとウォークマンで曲を聞き、虚ろな瞳で砂漠の車外を見ていた。
みんなで挨拶に行っても反応が無く、オーナーに訊ねると「駅長から預かりました。彼女は特異点で、ノースライナーに乗っていました。それがあるショックで変身を拒むようになり――」
「特異点?変身すんのか!?」
全員の気持ちを代弁したのはモモタロスだった。
「ノースライナー…」
コハナが何かに気づいたように呟いき、全員の視線が向いた。
「持ち主が女性と言うのは聞いていたわ。良太郎の時代の少し未来の列車ですよね?」
「そうです」
「デンライナー以上の特異点乗せてる列車ってないような気が……」
ナオミの何気ない発言に全員がどよめき、良太郎に白羽の矢が立った。
「はじめまして。さっきも紹介したけど、改めて…。僕、野上良太郎」
「デンライナーの特異点」
俯いてウォークマンを弄りつつ、まゆこがぼそぼそ答えると、再びどよめきが起こった。
「あ、コーヒー豆積まなきゃ。重いのよね〜」
デンライナーが止まり、ナオミが出ていき、まゆこも席を立った。
暫くするとまゆこがコーヒー豆の入った大きな袋を担いで戻ってきた。
「ありがとー、まゆこさん」
「ノースで主(あるじ)でも、ここじゃあ客だから」
「そ、そんなことないよ」
モモタロスイマジンたちが頷く中、良太郎が立ち上がると、「じゃーお前が運べ良太郎」モモタロスから茶々が飛んだ。
「え、う…」
良太郎が困る中、まゆこが指差したのはキンタロスだった。
「あんただろ。見かけ倒しだったら斬るぞ」
「なにぃ?俺を弱いんいうんか!」
ずんずん進んでくるキンタロスにまゆこは怖じけもせず、袋を担いだまま立っていた。
「貸せ!ナオミどこ置くんや?」
「ここでーす」
まゆこは再び席に戻り、プラットホームの人間を見ていた。
「ありがとう」
「なにが?あれ、あんたのイマジンだろ?ちゃんと躾ろよ」
「おいおいおい。なんだその言い種!」
「モモタロス…!」
「センパイ、可愛いげないからってやり過ぎ」
「ウラタロス!」
凄むモモタロスを良太郎が、毒舌のウラタロスをコハナが止めた。
「いいさ。面倒くさくなったら、主を殺ればいい。なんなら…」
この時初めて、冷酷な笑みをモモタロスたちに向けた。
「この列車も破壊していいんだぞ?」
「はああ?やれるも、んな――」
「ちょっと、ちょっとセンパイ」
「んだよ!邪魔すんなよ!」
異変に気付き、ウラタロスがモモタロスを引っ張りまゆこから遠ざけた。オーナーの傍までやってきて話す。
「あの子ヤバイよ」
「あ?」
「色んな概念自体が飛んじゃってる。僕や最初のリュウタよりタチ悪いよ。あの子の心の中心、きっと真っ暗闇だよ」
ウラタロスがオーナーを見ると、オーナーは深く頷いた。
「特異点ということと、ショックのための行動ということで、今回処分は見送られましたが…彼女、専用パスとノースライナーを壊しています。まあノースライナーの損傷は僅なところで止められたらしいですが。専用パスの再発行には少々時間が掛かります」
「で、なんでデンライナーなんだ?」
「良太郎の運の悪さ?」
「どうでしょうかねえ?」
「くっ!この、良太郎ー!!」
「え、え、うええ!?」
モモタロスの怒りの矛先は最終的に良太郎に向いた。