暇を持て余しているのでリハビリがてらにルカとジェイドのお話を。
ルカはジェイドによく説教をされてると思います。
まぁ部隊長の中で最年長と最年少ですしね。
それでは追記からどうぞ!
ゆっくりと、瞼をあげる。
眩しい。
そう思いながら青年は紅色の瞳を細めた。
何度もその瞳を瞬かせ、ルカは口を開く。
言葉を紡ごうとするが、喉が掠れて声が出ない。
小さく咳払いをすれば、その視界に長い緑髪の男性が映り込んだ。
「……ジェイド?」
掠れた声で、名を紡ぐ。
それを聞いた彼……ジェイドはこくりと頷いて応じた。
「ええ。目が覚めました?」
思ったより意識がはっきりしていますね、とジェイドはいう。
彼の言葉の意味を考え、すぐに思い出した。
頭に残る、最後の記憶。
それは、仲間……部下たちと一緒に出掛けた任務だった。
大型の魔獣の群れ、その討伐。
思ったより手こずった結果、まだ任務に慣れていない一人の部下が襲われかけて……
ああ、庇いに入ったんだった。
そこから先の記憶がない辺り、おそらく意識をなくしていたのだろう。
体のあちらこちらが痛むのはその時に負った傷ということか。
そう思いながらルカはジェイドに問いかける。
「……どんくらい、経った?」
そんな言葉の足りない問いかけでもルカが何を知りたがっているかは魔術医に通じたらしい。
溜息まじりに、彼は言った。
「三日ですよ」
「……あー」
ジェイドの返答を聞いて、ルカは小さく呻く。
想定していたより、長く意識をなくしていたらしい。
これは、後が厄介だぞと脳内で考えていれば、ジェイドが口を開いた。
「雪狼はシストとフィアがある程度の指揮は取っていますよ。
アレクやアンバーも手伝っていますし大きな支障はないはずです。
優秀な部下が育っているようで何よりですね」
いつでも引退できますよ、と笑いながらジェイドは言う。
言葉にトゲを感じる辺り、眼前の彼も少なからず怒っているらしい。
そう思いながら首をすくめて、ルカは彼に問いかけた。
「怒ってたか」
「誰がですか?」
「……みんな」
お前も含めて、という言葉は飲み込んだ。
ジェイドはそれを聞くと小さな溜息を吐き出して、いう。
「フィアもシストも怒っていましたし心配していましたよ」
無茶をするな、って。
そんなジェイドの言葉にルカは苦情を漏らす。
「だよなぁ」
想像がつく。
しっかり者で頼もしい部下たちなのだが……その優しさが、時々恐ろしい。
きっと後々、嫌というほど説教をもらうことになるだろう。
そう思いながら、ルカは笑う。
そんな彼を恨みがましげに見て、ジェイドは言葉を続けた。
「無論、僕もですよ」
「……だよなぁ」
ごめん、とルカは言う。
やれやれと溜息を吐いたジェイドは軽くルカの額を小突いて、いった。
「安心なさい。怪我人に手をあげる僕ではありません」
少し冗談ぽい口調で言うジェイド。
ルカはそれを聞くと力なく笑った。
「はは……それは、ありがたいな」
まぁ実際、復帰したらアレクには怒られるだろうし一発殴られるかもしれない。
そう考えると、もうしばらくここに……医療棟にいたいかもしれない。
そう思いながら、ルカは苦情を漏らす。
ジェイドはそんな彼を一瞥すると、翡翠の瞳を細めた。
そして、咎めるような声音で言葉を紡ぐ。
「少し自覚なさいな、貴方は」
「部隊長、だな。でも……」
何度ももらってきた説教だ。
特に、こうして怪我をして帰ってきたときに。
部隊長としての自覚を持て。
普通の騎士ではないのだ、仲間たちを統率する立場なのだ。
無鉄砲に敵に挑み傷を負うなど言語道断だ、と。
わかっている。
理解している。
それでも、とルカは反論しようとした。
しかしそれより先に、ジェイドがひらりと手を振る。
「わかっていますよ、貴方のいいたいことは。
仲間が怪我をするのがわかっていて放っておけなかった、のでしょう」
ジェイドはそう言う。
ルカはその言葉に小さく頷いた。
……あのとき自分が庇わなければ、彼は怪我をしただろう。
下手をしたら、命を失っていたかもしれない。
そうなるのは嫌で、恐ろしくて、ああして庇いに入った。
そんな自分の行動を後悔はしていない。
叱られても、止められても、謝りはしても後悔はしない。
ルカはそう思いながらジェイドを見つめる。
ジェイドはそっと息を吐いて、肩を竦めた。
「貴方の気持ちはわかりますし……きっと僕が貴方の立場でも同じことをしたでしょう。ですが……」
そこで一度言葉を切って、ジェイドは目を伏せる。
少し迷うように視線を揺るがせた彼は、顔を上げ、ルカを見つめて口を開いた。
「貴方は魔力をもたない。
普通の人間ならば多少緩和できるダメージすらそのままに受けることになってしまう。
それを理解した上で、動いてほしいのですよ」
それは、真剣な声音だった。
本気でルカを心配する言葉だった。
それを聞いて、ルカは目を伏せる。
そして、そっと息を吐き出すと、呟くように言った。
「あぁ……悪い」
今まで、何度も言われてきたことだ。
何度も、痛感してきたことだ。
そう思いながら、ルカは目を伏せる。
ジェイドはそんな彼を見て、目を細める。
そして、苦笑まじりに呟いた。
「本当にそう思っているのですかね」
少しは反省してもらいたいものなのですが。
そう言って肩をすくめるジェイド。
ルカはそれを聞いて小さく笑う。
「思っちゃいるさ。……彼奴らを悲しませるようなことはできないしな」
そう言って肩をすくめるルカはわざと戯けたような声で言う。
彼奴らというのはかけがえのない仲間たちのこと。
彼らに、悲しい思いはさせたくない。
それは確かな気持ちだ。
けれどそう言い切ってしまうのは少し気恥ずかしくて、ルカは冗談めかして肩を竦めた。
「……なんて、自惚れだよな」
そんなルカの言葉に、ジェイドはふっと笑う。
そして軽くルカの頭を撫でて、言った。
「自惚れではないでしょう。
貴方のことを信頼し、想う人間は決して少なくないのですよ」
それはちゃんと頭に残しておいてくださいな。
そう言って、彼は笑う。
もう一度、ぐしゃりとルカの頭を撫でた彼は手を引いて、言った。
「とにかく、今貴方にできるのはただ休むことですよ。
きちんと治して、早いところ他の面々からの説教も受け取りなさい」
「やれやれ……敵わないな」
そう言って、ルカは笑う。
その表情はいつも通りのもの。
ジェイドはそれを見て、ふわりと穏やかに笑ったのだった。
―― 想い、想われ… ――
(大切な、仲間。
彼らを想うからこその、行動)
(それは十分に伝わってきますとも。
しかし…それで貴方が傷つく姿を見たい者は、いないでしょう?)