心地よい、夏の午後……
金髪の男性……メイアンは恋人と一緒に、ショッピングモールに遊びに来ていた。
服やアクセサリーからスポーツ用品……そんなものが何でも揃う場所で、一日一緒にゆっくり回りたいとメイアンがいった結果だった。
そうして二人で一緒に色々と買い物をして回った。
メイアンがほしいといっていた服、西が買おうといっていたスニーカー……
いつもよりちょっと買い物しすぎちゃったわ、とメイアンが言えば、西はにやりと笑って"まだまだだろ"といった。
そうして二人で店を見て回っていたとき……
ひとつの店で買い物をしていた西が、何やら店員ともめていた。
メイアンは先に店からでているといって外に出てきていたため、何事かと言う顔をする。
しばらくして、仏頂面の西が出てきた。
彼は大分穏やかな気質だし、店員は女性。
それ相手に喧嘩、なんて考えにくいのだけれど……
そう思いつつ、メイアンは西に声をかけた。
「西?どうしたの、いったい……」
そんなおっかない顔して、とわざと少し茶化すようにいった。
すると西は溜め息混じりに言う。
「いさにーのやろー……
この前まで50万までだったのに!急に10万までにしやがって!!」
「え?五十万?十万?なんの話?」
メイアンは西の発言にきょとんとする。
何やら怒っている……と言うか、拗ねている?ようだが、原因が見えない。
否、今"いさにー"といったから、恐らく彼の従兄……伊佐次絡みのだろうけれど。
メイアンがそう問いかけると、西はじとりとした視線をメイアンに向けた。
そして、ため息混じりに答える。
「カードだよ、カード」
使える限度下げられたんだ、と西は言う。
彼曰く、流石にカードは自分では管理していない、という。
そのカードの管理をしているのが従兄である伊佐次なのだが、カードの利用限度額を下げられてしまったと拗ねている様子。
先程買い物をした店でどうやら上限いってしまったようで、もめているように見えた……そういう訳のようだ。
それを聞いたメイアンは緑の瞳を瞬かせる。
それから深々と溜め息を吐き出して、恋人の名を呼んだ。
「西……」
「?なんだよ?」
いまだ納得いかない、と言う表情だった西は小さく首をかしげる。
そんな彼を見つめて、メイアンはいった。
「高校生の買い物で五十万なんて聞いたことないわよ……何を買うって言うの?」
私だって買い物でそこまで使うことはあまりないわ、とメイアンは言う。
もとから西がかなり浪費家であること、買い物が好きであることは知っていたが……
まさかこれほどとは、思わなかったらしい。
西はメイアンの言葉に少し考え込む。
それから、さらりと答えた。
「んーカメラが型新しいのでたし、あとは夏だからモーターボートほしいなって2、3台」
ぴ、と指をたててそういう西。
その発言にメイアンはすかさずツッコミを入れた。
「おかしいわよ!モーターボートってほしいな、で買うものではないわよ!?」
何考えてるの!とメイアンは言う。
西はそれを聞いて"えー?"と言う。
「ほしいから買うんだろ?それに夏だぞ?」
海いかないと損だろ、と西は言う。
それはたしかに、そう思うけれど……
それでも、おかしい。
「だからって西、ボートは……あぁ、まぁ良いわ」
貴方が普通の家系の子じゃないの忘れてた。
メイアンはそう思いながら息を吐き出す。
西はそんな彼の気苦労は知らず、唇を尖らせつつ、言う。
「最近やたらと口うるさいんだもんなぁ伊佐兄!
いさにー、このごろお前も18になったんだから株主総会?出ろとかうるさくてさー!
そんな暇あるならウラヌスに乗りたいし海に行ってウラヌス2号乗り回したい」
そう愚痴る西。
メイアンは彼の発言に苦笑を漏らす。
「あなたほんとウラヌス好きねー」
そういうメイアンに、西は笑って"当たり前だろ?"と返す。
ウラヌスは、西の愛馬。
彼がウラヌスをとても大切にしていることはよくわかっている。
……けれど。
「……2号?海??」
そう、疑問がわいた。
メイアンの記憶にあるかぎり、ウラヌスは馬。
海には、いけない。
と言うか、海ではのれない。
メイアンの声を聞いて、西は"あぁ"と声を漏らす。
そして笑みを浮かべながら、いった。
「俺のモーターボートだよ、ウラヌス2号と3号!4号とか5号も欲しいなーって!」
「貴方分身の術使えたっけ」
メイアンは思わずそう声をあげる。
そんなにたくさんモーターボートは、要らないだろう。
メイアンはそういうが、西は唇を尖らせていった。
「いるよ!だって、年々新しいモデルは出るし……気分によってもどれに乗ろうかとかさぁ」
「……お金持ちの発想は、私とはちょっと違ってたわ」
嫌みでなく、とメイアンは言う。
そして軽く西の額をこづきながら、いった。
「全く……もう少しお金の使い方、考えた方がいいんじゃないの?」
そういって苦笑するメイアン。
西はその言葉に唇を尖らせる。
「メイアンまで伊佐兄と同じこと言う……」
「貴方のことを心配してるのよ」
そういいながらメイアンは彼の頭を撫でる。
それでも、自分とはまた少し違う価値観を持っている西を面白がっているように。
***
それから、数日。
いつも通りに西の部屋に遊びに来て、夕食の片付けをしていたメイアンの後ろに、西がたった。
「あら、西どうしたの?」
食器をすべて片付けてから、メイアンは首をかしげる。
西は少し躊躇うように視線を揺らしてから、何かを差し出した。
「これ、やるよ」
「え?なぁに?」
プレゼント?といいつつメイアンは西が差し出した箱を受けとる。
綺麗にラッピングされたそれは、少し重たい。
「開けてもいい?」
メイアンがそう問いかけると、西は小さく頷いた。
それを見て、メイアンは包みを開けていく。
そして、驚いた顔をした。
「これ、私がこの前見てたのじゃない」
そう。
中に入っていたのは、先日の買い物の際にメイアンが見ていた、キッチングッズ。
ざっくり言えば鍋やフライパンなのだが、普通のそれよりもずっと質の良いもの。
「え、やるって……でもこれ、結構したわよね」
値段、と思わず気にしてしまう辺りがメイアンだ。
そう思いつつ、西はそっけなくいった。
「安くなってたし、いいんだよ。
俺に返されたところで俺は使わねぇんだし……
それに、それでなんかつくってくれるだろ?」
西はメイアンにそう問いかける。
それを聞いてメイアンは幾度も瞬きをした。
それから、ふっと笑って言う。
「ふふ、もちろん西がそういってくれるなら……
でも、なんか悪いわね……」
「だから、気にすんなって」
―― 俺が好きでやったことなんだから。
西はそういってぷいとそっぽを向く。
彼は、案外自分のことをよく見ているのだな、とメイアンは思った。
買い物好きで、色々なものを欲しがるわりに、こうして自分にプレゼントをしようとする……
「ありがと、西」
嬉しそうにメイアンは言う。
それを聞いて、西も何処か嬉しそうに笑いながら、"おう"と返したのだった。
―― shopping… ――
(どうにも、愛しい彼の価値観は私とは少しずれている様子?
でもまぁ、そんなところもあの子らしくて、かわいいと思うんだけどね…)
(買い物するのも、ほしいもの買うのもやっぱり嬉しいけどさ…
あいつの嬉しそうな顔を見ると、やっぱり買ってよかったな、って思えて)