昼休みに擦れ違った平賀が、額に絆創膏を貼っていたんだ。
長い前髪に隠れたそれはぱっと見目立たなかったけれど、生憎僕が平賀の異変に気付かない訳はない。
ランチに誘って、その件を問いただしたら、
「部屋の片付けをしていたら、いつの間にか負傷していました……」
との返答が返ってきた。
ある意味、あれは才能なんじゃないだろうか。
住み慣れた我が家で怪我したり、あまつさえその事に直ぐに気付かないというのは。
僕よりも傷の手当てに関しては、平賀本人のほうが専門家だから、これから注意する様にとしか言い置きはしなかったけど……
不安だ。
何なら同棲さえしたいところだけど、それでは平賀の為にはならないし……
はあ……天才というのも、考えものだな。
ロベルトの夢を見ていたら、唇に何かが当たる感触で眼が覚めました。
ぼんやり眼を開けると、そのロベルトにキスされていて……
真っ赤だったろう私がベッドの上で身を引くのに、ロベルトはにやにやしながら「まだ良いだろう?」と言うんです。
眠気なんて吹っ飛んでしまって、それからうとうとするまでずっと唇を触れ合わせていました……恥ずかしい……
こういう時は、性格の違いを痛感します。
ロベルトは何故あんなに、私に触れたがるのでしょう?柔らかくもなんともないというのに。
ああ、でも、私もふとした時にロベルトに触りたくなりますし……。
似てきた、のでしょうか?
嬉しい様な嬉しくない様な……
いえ、やっぱり嬉しいですね。
---
前回のロベルトの投稿の翌朝にこれを投稿する予定が、機を逃して今までずるずる……
今日の平賀は、余程疲れていたのか頻りに眼を擦っていた。
そのくせパソコンでの調べ物を止めようとしないから、少し強い語調で就寝を勧めたんだ。
平賀は素直に従って、今はベッドの小さな明かりで読書している僕の隣で寝ている……んだけど。
「んん……ロベルト……」
とか、
「もっと下さい……」
とかいうのは、無意識なのか?
胎児みたいに丸まって、僕に擦り寄って来るんだ。
好きな人にこの態度を取られたら、僕としては我慢ならないんだよ。
疲労が溜まって早めに休んでいる訳だから、邪魔するのは無粋だと理解してはいるけどね。
襲ったら怒られる、かな?
けど、平賀が眼に涙を溜めながら頬を膨らませるあの姿、堪らないんだよ。
口付けするだけで我慢するか。
今日と明日をやり過ごしたら、日曜日だしね。明後日沢山可愛がってやるとしよう。
「ひゃ……っ」
終業、玄関を出たら前方に平賀の後ろ姿を見付けた。
追い掛けて行って名前を呼びながら肩を叩いた途端、突然平賀がそんな声を上げた。
振り返った彼の眼はすっかり涙目で、
「何するのですか、ロベルト」
不満げに眉を顰めるその表情を見て、よく僕は我慢出来たなと。
まあ、周囲の眼があったしね。最初の悲鳴じみた声で既に、注目を浴びたのは把握していたし。
しかし、当初は僕がいきなり叩いても、びくっとするか精々「わっ」くらいしか言わなかったのに。
……たまの夜の所為、かな?
自重しろという事だろうか。
僕自身はいつ辞職を迫られても構わないけど、平賀は嫌だろうし。
仕方ない。多少はセーブするべきみたいだね。
夜深くなってしまいました。
ロベルトはもう、きっと休んでいる事でしょう。
規則正しい生活を送れるというのが羨ましいです。私の場合、気が付くと夜中の三時だったり、若しくは朝日が昇っている事も少なくないですから。
連日お互い忙しくて、今日……ではないですね、昨日も、聖徒の座の前で立ち話をしただけでした。
三十分ばかり仕事の話や、後はロベルトが私の家や食事状況を気にしてくれて……そんなに私は、頼りないですか?
「あれから少しは部屋を片付けたかい?」「三食きちんと食べるんだよ」なんて、まるで母親の様ですよ。勿論、私のほうが年下ですし、何かと気を利かせてくれる事自体は嬉しいのですが。
なんでしょう……どうしてこんなに、もやもやとした感情が残るのでしょうか?
別れ際、「またね」と微笑んで私の頭に手を置いたロベルトに、つい見惚れてしまいました。
本当に、ロベルトの存在は私には勿体ないくらいです。
あ……思い出したら、また頬が熱く……
早めに寝ましょうか。この気持ちが冷めないうちに。