長い銀髪の男を前にして、追い詰められた獅子は。
「はぁ…っ、はっ…」
時に、最悪なモノへ変貌を遂げることがあるということを誰も知らなかった。
「は…、は…、………だ」
「もう抗うのは止したらどうだ?」
「……う…は、…も……だ」
「孤高の獅子がどんなものかと見に来たが、何のことはないのだな」
「(もう…何も………!)」
「おまえには死を贈ってやろうか?」
「黙れ」
「!!?」
声が聞こえたのは、背後から。
驚愕に目を開き、身を翻すが左腕が避けきれずに赤を噴き出す。
「もう…何も奪うな」
「もう何も失いたくない」
「失わずにすむなら」
「アンタを何度でも殺す」
「逃がさない」
ぶつぶつと口に出される言葉は呪いにも似たような願い。
彼が放つ終焉は、いつもの連撃回数が増して防ぎきれない。
なぁ、アンタを殺すためなら俺は記憶の底から引き出すよ。
俺のトラウマの、オリジナル。
「スコール!!」
「…?」
ぎゅ、と後ろから抱きつくのはティーダ。
もはや日常と化したそれをスコールは咎めるのも諦めている。
確かに鬱陶しいことは変わらないのだが、密かに彼の体温を心地よく感じているし彼の笑顔を見ると怒れなくなってしまうのだ。
「どうしたティーダ?」
「へ、なんで?」
「…何かいつもと違う」
彼は意外そうに目を見開いて、それから少ししゅんとしてこちらを見た。
「…気づいてないんスか?」
その言葉に今度はスコールが驚く。
一体自分は何に気づいてないと言うんだろう?
「いつもと違うのはスコールの方っスよ」
「…っ?」
「スコール、なんかあったっスか?」
きゅ、と抱きしめる力が強くなる。
「…、終わら…ない、…っ、途切れない…んだ」
「…うん」
「俺は…アンタのように、なれなくて…でもそれじゃ、ダメなんだ」
「ダメじゃないよ、スコールは、誰より頑張ってる」
君と違って、終わらない輪廻は断ち切れずむしろ作り上げたのは自分。
嘆いても報われない、自分の罪。
守るべき存在を殺めてまでしても終わらない悪夢。
罪を砕いた彼は太陽のように笑い、罪を作り上げた自分は血の雨を浴びる。
彼なら自分の罪も照らして、刻み込んで、その上で砕いてくれるんじゃないかなんて。
「スコールは、全部ひとりで背負いすぎなんだよ」
「違う」
「ひとりで背負いすぎだし、黙ってるし、意外と熱血バカだし」
「…それは悪口か」
「違うっス。ただ」
「ただ、きっと俺らの物語は変に特別すぎて不安定なんだ」
「なら、アンタは俺が倒れないように見ていてくれ」
「うん…!」
それは、例えば結果が最初から決まっていたようなものだった。
そう、まるで縦線がただ引かれただけのあみだくじみたいな。
むなしいだけの線。
最悪の結果が目の前におかれて、俺の脳は理解を拒否してる。
嫌だ。こんなの。
エゴ?そんなの知らない。
だって、目の前に立ちはだかるのは2人。
その組み合わせがまずかった。
ひとりは銀髪の魔女。
スコールがずっと追い続けてると言っていた、妖艶な女性。
前にカオスの本拠地に忍び込んだときにも見た、傲岸不遜な態度の彼女は名を確かアルティミシアといったか。
その前に立ちはだかって、まるで彼女を守るかのようにしているのは…
「スコール…!?」
彼女を倒すために追っているはずの、スコールだった。
「バッツ・クラウザー」
冷たい響き、彼独特の。
ただし、いつもはその中にあるはずの少しの温もりがない。
「お前は、魔女を斬るのか?」
「?」
「斬るのなら…」
魔女が凶悪な笑みを深く浮かべた。
「魔女の騎士が、お前を斬る」
辿った指は、真下へ堕ちた…
仲間が10人というのは、何故か落ち着かない。
これまで旅をしてきた時だって、10人ではないけれどリノアやゼル、セルフィにキスティスやアーヴァインとかいたし、まませんせいがいたこともあったのだ。
やはりそこは、全員が全員主となり相対する敵と戦ってきたからこその圧力とかなのだろうか。
よく自分は協調性が足りないと言われたが、この場合の協調性って何だ?
そんな俺にコスモスは言った。
クリスタルは、自分ひとりの力で見つけ出すものなのだと。
最初からなんとなく思ってはいたが、よくある宝箱に入っているようなものでは無いのだろう。
おそらく、自分の意志が鍵となるような…。
そうして、俺は1人で道を進む。
進んで、気づけばやはりまた仲間のもとにいるのだ。
そうだ。約束をしたのだから。帰ると、約束をしたのだから。
でも何故か落ち着かない。
カオスとの戦いを前に何かを感じ取っているからだろうか。
それとも…?
「スコール!」
「…なんだ?」
「ガンブレード、少しでいいから見せてほしいな〜って。って、ジタン!僕に言わせるなよ!」
「……………」
「駄目?」
「…ジタン、壊すなよ」
「なんで俺だけ!?」
「ジタンは信用が無いんだよ」
「スコールひでー!」
オニオンとジタンの2人が仲良くリボルバーをいじるのを横目に、気づけばティナが横にいた。
「ふふ、2人とも、仲がいいよね」
「そのうえ元気もありすぎる」
「元気なのは良いことだよ。スコールには…少しうるさい?」
(少しじゃないがな)
「さっき…2人が話していたの。カオスを倒したら、お別れだねって」
「…………!」
「それで、元いた世界に戻る前にやりたいこと全部やっちゃおう、って、さっきからあんな調子」
「そうか…」
その夜は、なんだか寝付けなくて、ひとり抜け出し夜空をみた。
酷くくすんだ色をしたその空は、いつか晴れるのだろう。
もしかしたら、明日にでも。
「けれど、それは別れ、か」