あなた、どうかこの狐の話を聞いておくんなまし。
ほんにつまらぬ話でしょうが、言わずにはいられぬのです。
知ってほしいのです、助けになってほしいのです。
私、なんと想いを寄せてしまったのです――ある人間に。
え? 狐の言うことなぞ信じられぬと?
ああ、そうでしょうとも。私は狐ですから。同族の会話ですら実と嘘の境がつかぬ事など沢山ございます。
ですが、どうか。この話だけは否定しないでくださいまし。
あの日、私は食料を求め森を歩いておりました。
慣れた道でございます。ほぼ毎日行く獣道でございます。
そこで、ああ、どうか笑わないでくださいまし。
恥ずかしいことに私、この歳で人間の仕掛けた罠に捕まってしまったのです。
そしてこの怪我を負いました。
がぷりと足を噛まれたのです。長く生きた私ですが、数日そのままでしかも雨だったということもあり、今度こそもう駄目だと。
さりとてみっともなく声を上げるのも憚れる。
恥以外の何物でもないこの出来事、眷属に知られたらなんと化けて騒がれるか……想像もしたくございません。
うすらとした意識の中、雨音に混じり、さく、さく、草木を踏む音が聞こえました。
はて、この時分に奥まで分け入るなんて何を考えているのだろう。同族や森の動物にしては大きい足音。
雨故に鼻が利かぬものですから私は必死に意識を繋ぎ留め、耳をそばだてました。
ぱたぱたと雨音を弾く音も聞こえ、そして、不意に冷たい雨が止みました。
不思議に思い、瞼を開けると――ああ、そこにその人間がいたのです。
私は終わりだと思いました。ところが驚くことに、人間は私を見、抱き上げ、介抱したのです。
腰に下げた巾着から合わせ貝を取り出し軟膏をぬり、真白の布を巻き。
……え? ええ、ええ。おっしゃる通りでございます。この腕に巻く布こそその人間の名残です。
数日人間のもとにおりました。その人間は獣の扱いに慣れているようでした。むやみやたらにに私を触ることはなかったのです。
ある程度治った私はまたこの山まで連れられ、離されました。見晴らしの良い場所でしたので、眷属に見られては堪らないと私は人間から逃げるように離れてしまいました。
勿論、後悔は尽きません。私は人間にその恩を返していないのですから。
あ、酷いですね。私これでも義理堅くございますのに。
犬のように鼻を使い人間を追おうとしたのですが……如何せん、数日続いた雨ですっかり臭いは消え果ててしまいました。
私にもその人間の臭いはつきませんでした。
いっそ、ついて自らのものにしてくださればどれだけよかったか。
眷属に戻っても変わりない毎日を過ごすだけですのに。
……え? ええ、勿論ですとも。逢えるものなら逢いたいですよ。
ですがそんなこと。有り得ないでしょう? 場所がわからないばかりでなく、私たちは、人間とは、相容れないのですから。
今、なんと? 連れて行って、くださると?
ええ、人の子に紛れるなんて、以前の私なら考えられないのですが、今の私はその人間に逢えるのなら!
人の子に化けるなど、私にはお茶の子さいさい。化け術は私の十八番。右には誰も出しやしませんよ。
ええ、ええ。わかり申しました。
まさか雷神様が私などの願いを叶えてくださるとは!
(20100427)
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続かん。
妖怪と神様と人間のはなし。
現在はまってるジャンルを元に…てか名前と続き書いたらそれの二次に確実なる。
でも続き考えてない。