私の通う職場のビルは、高いビルの立ち並ぶこの辺りのオフィス街でも群を抜いて高く、単なる事務職派遣の身には少し高すぎるな、という感が否めない。
目も眩むような高みから地上を歩く豆粒のような人間たちの頭を見下ろしていると、分不相応の優越感を抱いてしまう。
煙とナントカは高いところが好き、とはよく言ったものだ。自分の単純な優劣意識に笑いが起きる。

そのビルの最上階にある食堂からは隣のビルの屋上がよく見えて、時々昼間の日差しに照らされた鉄のドアが開いて色んな人間がそこから出てくる。
一人で、あるいは二人で。煙草を吸いに出てきていたり、または少しの色事を楽しみに。

今日も食堂のひどく美味しくはない天ぷらうどんをもそもそと食べながら、ぼんやりとそちらを見ていると、ぱっとしない制服に身を包んだ髪の長いかがふらふらとドアから出てきた。
一目見た瞬間から何かが妙だな、と思って、でもそれは明確にこれがおかしいと断定できるほどの違和感でもなく、うどんの汁を飲み干しながら眺めていると、女はひょいとフェンスに足を掛けた。
そのまま、私が何かを思う間もなく、女は地上にまっ逆さまに落ちていった。

女が高いビルの屋上からアスファルトに叩きつけられるその瞬間まで、私はそれを見ていた。
無声映画など、今だかつて見たこともないというのに、一連の出来事は音のない映画の一コマを見ているようだった。

下を見下ろすと、赤黒い染みの中に何かの塊がそこにあった。
物体としての女がただそこに、あった。

私はなにか面白いものを見たような気になって、そのあとすぐにそう思った自分にゾッとしたのであった。

みじかいの