話題:地味に恥ずかしかったこと

大学生の頃、担任の先生は男の人だったんですね。その先生の講義がおもしろくて、片っ端から受けていたんです。授業中は教卓の目の前の席を陣取って、レポートもまじめに出して。でも当時は今よりも男の人と話すのが苦手だったから先生の目を見る事ができない、廊下で会ったら脱走する、というのを大学４年まで続けました。

ゼミを決める時にその先生のゼミを希望したものの、希望者が多かったので落ちるものと思っていました。そしたら８人だか９人の枠に入れてもらったんです。それから少しずつ先生と話せるようになり……というか卒論について話す必要があったので強制的に会話をするようになりました。担任と生徒の関係で一応４年の付き合いがありましたから、先生はわたしを「仕事を頼みやすい人」と思っているようでした。「ハウさん飲み会の幹事やって」「あ、ハウさんちょっとこの荷物僕の研究室まで運んどいて」度々頼まれ事があるので、少しずつ先生と二人で過ごす事にも慣れていきました。どの位慣れたかって、研究室にある先生のお菓子を勝手に食べて代わりに自分好みのお菓子を補充しておくくらい。

一緒に買い出しに行った時には、好物のチーズかまぼこと６ピースだかのまるいチーズとアーモンド入りチーズを買い物カゴにこっそり入れたものの片っ端から元の棚に戻され、「そんなにチーズばかりあっても食べないでしょ！」「食べます！」「乳製品ばかり食べたらお腹こわすでしょ！」「お腹丈夫です！」とよく言い合いになりました。伝わりにくいかもしれませんが、自分なりに甘えていたんですね。

さてそんな先生と卒業式の後飲みに行きました。先生はウイスキーのグラスを傾けながら「もう卒業したから言うけど、僕はハウさんの事は絶対ゼミに取ろうと思ってたよ」と一言。「なんでですか？」と尋ねると「だって１年生の頃からあんなに熱烈なラブコールをもらってたら、誰だって可愛がりたくなるよ。ハウさん好き嫌い分かりやすいんだもん。僕の事好きなんだなって流石に分かるって」「えええええ、なんで、先生の事慕ってるって、どこで分かったんですか？」「僕の講義ほとんど取ってるし、いつも教卓のまん前の席に座ってたでしょ。でも他の先生の時はそうじゃなかったでしょ」「はい」「後、生徒に僕の講義が好きって言ってまわってたでしょ」「はい……」ばればれでした。あんなに恥ずかしかった経験もなかなかないと思います。

先生は握手の手を差し出して「卒業したらがんばれよ。もう少し自分に自信を持って。やればできるんだから」と言いました。当時わたしは就職が決まらないままで卒業式を迎えた身でしたが、それについては何も言われませんでした。あの時の約束を守れているかというと頷けません。でも、いつか再会した時に恥ずかしくないように、前にすすんで行きたいです。

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