話題:おいおい、まじかよ…

一万回、壁に激突すると、その内の一回は壁をすり抜けて向こう側に行けるらしい……。ずいぶん前、そんな話を小耳に挟んだ事がある。あ、そうそう、小耳と言えば、子供の頃私は耳たぶを指で丸めて耳の穴に格納する技を持っていた。手を離しても耳たぶは耳の穴に収まったまま、というスタイルだ。しかし、いつの頃からかそれが出来なくなってしまった。寂しいので現在は耳たぶの代わりに木耳(きくらげ)を耳穴に詰めて昔を懐かしんでいる……などと言う事はない。が、耳たぶ格納術の話は本当だ。

さて、話とリクライニングを元に戻そう。

壁のすり抜け。話の信憑性は不明だけれど、どうやら理論上はそういう計算になるらしい。一万回に一回は激突する事なく壁を通り抜けられると。何でも、そうでないとブラックホールの存在が説明出来なくなってしまうのだとか。理屈はさて置き、その話を聞いた時、私はこう思った―「ふむ、世界もまだ捨てたものではないな」―と。何故、壁をすり抜けられると世界が捨てたものではなくなるのか、その理屈もまるで解らないけれど、兎に角そう思ったわけです。

以来、人目がない所で時々、素知らぬ顔をして壁に激突し続けているのだけれど、正直、ただの一度も成功した試しがない。ことごとく壁に弾き返されてしまう。

体が壁をすり抜けるイメージはそれなりに持っているつもりだ。一見すると堅固な壁も原子や分子レベルで考えれば隙間だらけで、イメージとしては網戸を思い浮かべて貰えると良いと思う。その網戸の隙間を自分の体の全粒子が通り抜けられれば“壁抜け”は成功となる。判りやすい総体的イメージとしては、自分の体を蚊柱(小さな虫が数百数千集まって遠目からは一つの大きな塊に見える物体)として、その蚊柱が竜巻のように移動しながら目の粗い網戸を通り抜けるような感じだ。蚊(虫)の一匹一匹は網戸の目よりも小さいので、壁(網戸)に阻まれる事なく体(蚊柱)は向こう側へと到達する。逆に言えば、壁抜けに成功した時、自分の体の(分子レベルで存在する)隙間を壁の粒子がすり抜けている事になる。可逆性を持つすれ違いだ。

といった具合に、イメージも理屈も(それなりに)持っているにも関わらず、未だ壁抜けに成功しないのは、やはりまだ何処かに照れがある、と言うか、信じ切れていないから、なのだろうか。仔鹿のバンビみたいにピュアな瞳と気持ちで、けれん見なく壁に激突する必要があるのかも知れない。

何れにせよ、ブラックホールの存在を証明する為にも、伝説のイリュージョニスト[デビッド・おカッパ頭フィールド]として、これからも壁抜けに挑戦してゆくつもりなので、もし成功した暁には必ずやこの場所で報告させて頂こうと思っている。皆様も、何となく通り抜けられそうに思える壁や扉を見つけた際には是非、壁抜けに挑戦してみては如何だろうか?


〜おしまひ〜。