話題:SS

スチュワーデスがキャビンアテンダントと呼ばれるようになって、どれくらい経つのだろうか。そんな事をつらつらと考えながら久しぶりの空旅を楽しんでいると、機内が突然ざわつき始めた。間髪入れず、女性の声が響き渡る。

「お客さま、お客様の中でお医者さまはいらっしゃいませんかー!」

よく通る声の持ち主はCA(キャビンアテンダント)の女性。騒然となる機内に再度、CAの声が響く。すると、「私、ドクターですが…」、シャープな顔立ちの青年の立ち上がる姿が見えた。「助かります。どうぞ此方へいらして下さい」。その青年医師はCAの女性に促される形で前方に引かれているカーテンの向こう側に姿を消した。初めて乗る航空会社の、これまた聞いた事のない機体種なので機内の構造はよく知らないが、恐らくカーテンの先はファーストクラスの客席で、その先が操縦室になっていると思われる。

まさか、ドラマや映画ではお馴染みのシーンが現実に目の前で起ころうとは。以前、商社に勤めていた頃、少なくとも週に二回は、国内外問わず飛行機に乗っていた。その約十年間、一度もこのような場面に出くわした事はない。それが、数年ぶりにひょこっと乗った時に限って起きるとは。確率の偏り。やはり世の中は少し不思議に出来ている。それにしても、医者が呼ばれたという事は、急病人が出た可能性が高い。大丈夫だろうか。大事無ければ良いのだが。そんな風に心配していると、先ほどのCAが再び姿を現した。

「おさま、お客さまの中で“失敗しないお医者さま”の方はいらっしゃいませんかー!」。

えっ!。さすがに、この呼びかけは尋常ではない。何があったのか。あのキレ者に見える青年医師が処置をミスしたのだろうか。それとも、ドクターはドクターでも、医者ではなくドクターペッパー関連なのか。俄に機内の緊張が高まる。すると――「わたし、失敗しないので」――一人の女性がすくっと立ち上がった。が、恐らく皆様の想像とはだいぶ違う感じだと思う。当然、二人はカーテンの向こう側へ。

何が起きているのかまるで想像つかないが、兎に角、無事であって欲しい。心の中でそう祈っていると、またまたCAの女性が姿を現した。

「お客さま、お客さまの中で厚生労働省の方はいらっしゃいませんかー!」

厚労省!何だか本格的に大事になってきた。失敗しないはずの医者が失敗したのか。それとも、手技だけでは手に負えない何かが……厚労省と言う事は、まさか……伝染性のある疾病か……。不安に満ちた空気の中、白鳥と名乗る男性が立ち上がり、CAと共に去っていった。その数分後……。

《続きは追記からどうぞ》