話題:SS


【かつて、百貨店の屋上にあったものは何か?】

そんな問いがあるとして、君なら何と答えるだろう。

小さな遊園地、動物の乗物、植物園、ゲームコーナー……。いや、恐らく君はそういう具体的な答え方はしない。その洗練された精神は、もっと簡潔で、それでいて全てを象徴的に包含するようなスマートな答を導き出す筈だ。例えば、そう――『かつて百貨店の屋上には“夢”があった』――といった具合に。

そして僕は、概ねそれに同意するだろう。だから――と云う訳でもないのだが――これは、そんな“夢の欠片”のような話だと思って気楽に聴いて欲しいのだが……。

まだ幼い時分、東北の某県で行われた遠い親戚の何回忌だかの法要に家族揃って出席した折り、【M百貨店】という古いデパートに立ち寄った事がある。

君ぐらいの年齢ならば心に覚えもあると思うが、その昔、百貨店というのは、よそゆきの服を着ておめかしして出掛けるような少し特別な場所だった。

勿論、今でも百貨店の名を冠したデパートはある。けれども、昨今のデパートは、よりモール型の総合ショッピングセンターに近づいた形、つまり種々の独立テナントが寄り集まって存在する、云わば〈連邦共和国〉のような形態に変わりつつあると僕は考えている。もし、その喩えが有効ならば、昔の百貨店はさしずめ〈王国〉と云ったところだろうか。

百貨店にお出掛けするというのは、王国へ出向いて王様のいる城に登城する事であり、故に正装が必要だった。そんな風に考える事も出来る。言うまでもなく、そこに本物の王様など居はしない。居るのはシンボルとしての王様だ。


《続きは追記からどうぞ》