話題:なんとなく

映画でも借りて帰るか、などと思いたち、レンタル屋に立ち寄る事にした。特に目当ての作品がある訳ではないので、あちこちのコーナーを節操なく見て回る。縦横無尽に通路を移動するさまは俯瞰で見れば限りなくパックマンに近い。店員に捕獲されないよう気をつけ、パワー餌を食べつつ、目ぼしい作品を探す。

そう言えば、観よう観ようと思いながら『ハウルの動く城』を未だ観ていない。パッケージを手に取り眺める。そして思う。いつか観ようとは思うが、それは今ではない気がする。うむ。林先生には申し訳ないが今はやめておこう。パッケージを棚に戻す。これは過去二十回ぐらい繰り返されているパターンだ。果たして、私が『ハウルの動く城』を観る日は本当に訪れるのだろうか。

そうこうする内、通路の割と目立つ一角に特設コーナーが設けられているのを見つけた。【追悼:高倉健】と書いてある。そうか…そうだったな…。未だ実感は湧かないながら幾分しんみりとした気分で出演作のラインナップを眺める。

追悼コーナーには私の他にもう一人先客が居て、それは水戸黄門のようなお爺さまだった。健さんの映画に何かしら思い出があるのかも知れない。そんな事を思っていると、返却されたDVDを棚に戻しに店員の女の子がやって来た。その姿を見て、黄門さまが「あのぅ…」と声をかける。

黄門「すみません…ちょっと探してる物があるんだけど…」

店員「はい、何でしょう」

どうやら、黄門さまは私と違って目当てのタイトルがあるようだ。何だろう。健さんの出演作で有名な物はあらかた棚に並んでいるので、若い頃のマイナーな作品でも探しているのだろうか。そんな事を思いながら、何となく横の会話を聞いていた。

黄門「えっとね…」

店員「はい」

さて、何を探しているのだ?心の中の井上陽水が歌いだす。探し物は何ですか♪

が、黄門さまの口から飛び出した言葉は予想だにしないものだった。

黄門「…ロボコップってある?」

………。さらば、井上陽水。

店員「……ロボコップ…ですか?」

黄門「うん、ロボコップ」

ロボコップ……。
健さん……全然関係ない。

そして黄門さまは、店員に導かれる形で悠然と追悼コーナーから去って行ったのだった。


【終】