話題:声


通路を歩いていて、横や背後から突然「キターーッ!」と声が飛んで来たら…恐らく殆んどの人は驚くと思います。

勿論、私も驚きました。という事は、つまり…そうです…そんな出来事が実際にあったのです。

場所は某スーパーマーケットの地下にある食品売場。私が冷凍食品コーナー横の通路を歩いていると、不意に斜め後ろから声がしたのです。

「キターーッ!」

音量自体は小さいものの、エネルギュッシュな低音。力強い声でこの台詞とくれば、もはや声の主はあの人以外には考えられません。

(織田裕二さん!?)

慌てて振り返る私。が、そこには織田裕二さんはおろか、石黒賢さんの姿すらありません。そう、振り返っても奴はいなかったのです。

――読解の手引き――

かつて『振り返れば奴がいる』というドラマがあり、その主演が織田裕二さんと石黒賢さんだったのです。

――手引き終了――

空耳か?

が、その直後またしても…「キターーッ!」。

空耳ではありません。ところが、声はすれども姿は見えず。しかも面妖な事に、どうやら声の出所は冷凍食品の棚の中らしい…。

何故、冷凍食品の中に織田裕二さんが?ひょっとして、私の知らない間に《冷凍ミニ織田裕二》がニチレイあたりから新発売になったのでしょうか?

相変わらず「キターーッ!」の声は、数十秒おきに定期的に繰り返されています。私は…いや、私の中の川口浩探険隊は…真相を確かめるべく更に音源に近づき耳をそばだてました。

すると、どうやら声の主は冷凍棚のモーターであるらしい事が判りました。冷気を出す機械の調子が悪いらしく、更には老朽化した棚の建てつけの悪さと相まってモーターの作動音が人間の声そっくりに変化したようです。

何とも絶妙な変化の仕方。人間の声にしか聴こえません。しかも滑舌がとても良い。完全に織田裕二さんを再現しています。

偶然の仕業とは言え、あまりにも絶妙な出来事。それが証拠に、その通路を歩く人はけっこうな確率で「キターーッ!」の声に驚いていました。

それにしても、単なる音が言語として認識された瞬間、そこに特定の意味が生じるというのは、考えてみれば面白い話だなと、そんな事を思ったのでした。

因みに、この冷凍食品コーナーは6月10日の記事『疑惑のチキンカツ』に登場したのと同じ場所。奇妙な事件が立て続けに二度…もしかしたら、この場所こそは隠れパワースポットなのかも知れません。


〜おしまい〜。