話題:どうでもいい報告


珍しく近所のスーパーに松阪牛が並んでいた。そして、並んでいた牛たちは開店と同時に店内にドドーっと突入し……という意味の“並んでいた”では無く、精肉売場の一角に“お肉として並べられていた”という事です。

松阪牛と言えば、言わずと知れた《世界四大マツザカ》の一つ。残りのスリーマツザカは、@野球の松坂大輔投手A百貨店の松坂屋B女優の松坂慶子さん(愛の水中花)となります。

こちらでは(店にもよりますが)松阪牛が店頭に並ぶ事はあまり無いので、ちょっと目を惹く存在なのです。

松阪牛サーロインステーキ。見事な霜降り。とても美味しそうです。ところが…一枚200瓦(グラム)少々で、お値段は約6000円也。やはり高い。6000円あれば竿竹が12本も買えます。

しかしながら、当面竿竹を買う必要はないので、ここは一つ、清水の舞台をよじ登るつもりで松阪牛を買うという手もあります。

さて、どうしたものか…。

松阪牛サーロインステーキの数は4パックのみ。うかうかしていると先に買われてしまいます。

そんな風にしばし売場の前で思案に暮れていた私。そうこうする間にも多くの人間が松阪牛の前を通り過ぎて行きます。「月日は百代の過客にして、行き交う年もまた旅人なり」。そんな言葉が想い起こされます。

天下に名だたる松阪牛。誰もが目を留め、手に取ります。そして、夫婦連れや親子連れなどグループで来ている人は、かなりの確率でこんな会話を交わします。

『美味しそうだね』

そして、手に取ったパックを再び棚に戻します。優しい手つきで。釣りで言うところのキャッチ&リリースです。

誰もが一度は着目し、或いは手に取って眺める。しかし、その誰もが決して買おうとはしない。アンタッチャブルな存在。

果たして、このアンタッチャブルな価格の松阪ビーフを買う人間は存在するのだろうか?

ふと、そんな事が気になったので、少しの間近くで様子を見ていると…五分くらい経った頃でしょうか…仕立ての良いダークグレーの背広に身を包んだ恰幅の良い口髭の老紳士が、松阪牛に目を留めるや否や、当然といった風情で買い物カゴの中に入れたのです。

それは、一枚6000円のステーキ肉が売れた決定的瞬間でした。めでたしめでたし…。


〜おしまい〜。


…と言いたいところですが、実は続きがあるのです。

その数分後。他の売場を回り、再び松阪牛ゾーンに戻って来た私が目にしたたのは、棚に並ぶ4パックの松阪牛サーロインステーキでした。

あれ?先ほど老紳士が1パック買って行ったので、残りは3パックのはず。私が持ち場を離れた数分の間に店員が1パック補充したのだろうか?いや…持ち場では無いけれども。

そんな事を思いながら、4つのパックを確認してみると…並んでいるのは最初に見た4パックと同じ物である事が判明しました。という事は…例の老紳士は一度は買い物カゴに入れた松阪牛を時間差攻撃で棚に戻した…恐らくはそういう事なのでしょう。

観賞用のお肉。どうやら、人と松阪牛の間には見えない高い壁が存在するようです…。

或いは、店側の狙いとして…

松阪牛を見て牛肉が食べたくなる→高いので諦めて他の牛肉を見る→松阪牛の値段を見た後なので安く感じて思わず買ってしまう。

結果、松阪牛は売れないが他の牛肉が売れる。そのような効果を狙っているのかも知れません。

松阪牛は他の牛肉を買わせる為のアテ馬。牛なのに…馬。どうりでウマそうに見える訳です。と、軽くオチが着いたところで本日はこの辺で…。


〜おしまい〜。